吸血器の宴 3/3

こんにちは。

MBAのインターンシップに参加させていただいている、高橋樹と申します。

私の更新する記事も、これが最後のものとなりました。最後の更新は、“吸血器の宴”のラストまでです。

このパートのメインである、貴音と首長の決戦シーンは非常に力を入れて書きました。この作品のハイライトと言えるでしょうね。ここまでの戦闘シーンが貴音の一方的な無双であったため、双方の格を落としすぎないようにバランスを考えて戦闘を描写する事に気を遣って執筆しました。

戦闘における活躍は貴音が独占しているためこの作品の主人公は貴音であると考えられる方も多いでしょう。確かにキャラクターとして先に存在していたのは貴音であり、楓は貴音を主役に据えた物語を成立させるために生み出されたという側面は持っています。しかし、やはり物語として重きを置かれているのは楓から見た貴音の姿であるため、作者の解釈としてはあくまでも楓を主人公であると考えています。

ちなみに、この作品はシリーズの始まりの作品として制作されました。執筆時点でシリーズの構想自体はあったものの、実際に書く予定は無かったため本題に章題は記載されておらず、締めの部分に章題が追記されている形となっています。

この場で見せることはできませんが、楓と貴音の関係はシリーズを通しての主軸でした。この二人の関係は今後どうなっていくのか。それは、ご想像にお任せします。

貴音と首長の壮絶なる戦いの果て、狂える夜叉に、楓は何を見るのか。

興味のある方は是非、記事をご覧ください。

吸血器の宴 急

「——そうか。この少女が……」

 楓の反応を見て、首長が重々しく呟く。沙也は襲撃者が楓の知り合いであったことを悟り、忌々し気に楓を睨み付けていた。

「ふーん。あなたがここの首長さんかぁ。そしてそっちの子が黒田沙也さんだね」

 自分の名前が知られていることがよほど不快だったのか、沙也は一層顔をしかめた。

「朱雀院さん……どうしてここに?」

「えーっと、あなたを助けに、かな」

「嘘ですよね」

 間髪入れずに楓が突っ込むと、貴音は満足げに笑顔を見せる。

「さすがに冗談だってわかるかぁ。うん、本当は血吸の餌やり。」

 そう言って貴音は手に持った刀――血吸をかざす。これまでにも多くの吸血の肉を切り裂いたであろうその刃は、汚れも劣化も一切ない、洗練された鏡のような美しい刀身を維持していた。なるほど、これは確かに妖刀だと楓は改めて確信した。いくら使っても綻びを見せない刀など、明らかに物理法則から逸脱している。

「その刀の……餌……?」

「うん。この刀は血を摂取しないと死んじゃうんだけど、独特の好みがあってね。人間の血よりも、魔物の血を欲しがってるんだよ。だから、あなたたちみたいな吸血鬼の血は、この刀にはご馳走なんだよね」

「……吸血鬼の血を啜る吸血鬼、か」

 首長は驚いていた。基本的に、吸血鬼は吸血鬼の血を吸わない。というのも、基本的に吸血鬼の味覚では、吸血鬼の血は非常に不味いのだ。

 吸血鬼の血を啜る吸血鬼というのはいないわけではない。だが、それも非常に貴重である。そういった血族は非常に珍しい種族で、狩られる獲物の立場である吸血鬼も数百年に一度会う機会があるかないかという程度である。それに血吸の場合は器物として使い手である人間と共存するというまた別の珍しい吸血鬼でもあるのだ。首長は実に四百年という長い年月を生きてきた吸血鬼であったが、このどちらのタイプの吸血鬼も話には聞いたことはあっても実際に見たことは無かったし、あまつさえ両方の特質を兼ね備える存在がこの世にいるとは想像もしていなかった。

「何でここがわかったの……?」

 沙也が憎らしげに呟く。声量が小さかったため返事を期待してのものではなかったのだろうが、貴音はそれをきちんと聞き取ったらしく、答えを返す。

「桧原さんをつけてたんだよ。桧原さんがここの人たちに目を付けられているってことは分かってたからね。そしたらここがわかったってわけ」

 自分の名が出てくるとは思わなかった楓は驚愕した。まさか自分がつけられていたとは気付かなかった。恐らくBat Boxから帰る時点ですでにつけられていたのだろう。と同時に楓はこの惨劇は自分が招き寄せたようなものであることにも思い至る。首長と沙也の様子を伺うと、沙也は案の定殺意のこもった目で楓を睨み付けていたが、首長にはもはや楓の事は眼中にないらしく、静かに貴音を見つめている。

「君のしていることはこの町の魔の秩序を著しく乱す行為だ。吸血鬼の勢力が一つ消えるだけでパワーバランスは大きく崩れる。君は、この町の魔物すべてを敵に回すことになるぞ」

 それは厳かな警告だった。首長の言葉には明確にこれまでなかった敵意と警戒が含まれている。それは、自分に向けられていないとわかっていても楓の肝が冷えてしまうほどだった。だが、貴音はそれを笑って切り捨てる。

「ああ、実はもうこの町の諸勢力とは話がついてるんだよね」

「……なに⁉」

 思いがけぬ言葉に首長は声を荒げる。そんな彼に貴音は懐から数枚の紙を取り出し、ひらひらと扇いだ。

「ここの鼠を駆除していいですかって聞いたらみんないいですよだって」

 その紙には首長の知る限りのこの町での有力な勢力の印が確かに刻まれていた。

「出鱈目だ!何を以って我らが——」

「最近、ちょっと仲間を増やしすぎかなーって、みんな言ってましたよ。だから、お灸をすえてやらないと」

「! そ、それは……」

 確かに、首長の勢力は最近人間を精力的に襲って仲間を増やしていた。しかし、それは最近この町の魔物を襲いだしたという脅威である目の前の少女に対抗するためである。首長自身はそれに反対ではあったが、恐怖におののく自分の仲間たちを見て強く出ることができなかった。それが最悪の形で裏目に出てしまった。数を爆発的に増やしていくペスト血族と血に飢えた少女を天秤にかけ、魔物たちは後者を取ったのだ。

「さて、それじゃあ前置きはもういいかな。首長さん、覚悟はいい?実のところ、思ったより大したことなくてがっかりしてるんだよね。」

「……そうか。であらば見せてやろう。儂の四百年で培われた力を!」

 そういうや否や、首長は戦闘形態へと変化する。だがその風格と体格は他の吸血鬼たちと比べ物にならない。その体毛は灰色というよりも白銀に近く、それをなびかせてたたずむ姿は優美さを感じさせた。他の吸血鬼たちよりも一回り大きく均整の取れた肉体はどこか狼を思わせた。

「ハッ!」

 先手を取ったのは貴音だった。血吸による一閃が首長の肉体に襲い掛かる。これまでならば血吸は吸血鬼の皮を破り、肉を抉り、いともたやすく血を啜っただろう。

「ッ!」

 しかし、そうはならなかった。甲高い金属音とともに刃が首長の腕に弾かれる。思わぬ衝撃に貴音の動きが一瞬鈍くなる。首長はその隙を見逃さず、一本一本がそれこそ刀ほどもあるのではないかというほどにまで伸びた鉤(かぎ)爪(づめ)を振るい、貴音を攻撃する。

先制攻撃に失敗したとみるや否や貴音はすぐさま後退をしていたが完全な回避には間に合わず、鉤爪が頬をかすめた。皮が削がれ、一筋の血が流れる。

「幾星霜を経てきた儂の毛皮を未熟であった我が仔らと比べてくれるなよ。いかな業物とて、儂に傷を付けることは能わん」

首長の戦闘形態は精錬され発達しており、その毛皮は他の者たちと比べ物にならないほどの防御力を有していた。貴音にとって血吸の攻撃が通用しないというのは初めての経験だったため、これには非常に驚いた。

 しかし、貴音の闘争心はこんなことでは挫けない。むしろその黒い炎は強敵という薪を得てさらに激しく燃え盛る。貴音は頬の血を拭うと、ニィと嬉しそうに笑みを浮かべる。頬の傷は拭ったときにはもう塞がっていた。その程度であれば、吸血鬼の再生力でどうにかなる。結果的に先程の攻防でお互いに発生したダメージはほぼ皆無に過ぎず、無鉄砲な先制攻撃を仕掛けた自覚がある貴音にとっては、これは上々の結果と言えた。

 貴音は一呼吸着くと、刀を自分の正面に構えた。俗に言うところの、正眼の構えである。やみくもに攻撃したところでどうにもならないと考えたのだろう。貴音はそこから何の動きも見せなくなってしまった。貴音が攻撃直前の一瞬以外で構えを取るのはこの日の戦闘では初めてである。貴音はこれからこの日初めて、本気の戦いを始めるのだ。首長も今はまだ攻撃に出るべき時ではないと考え、動きを止めた。そして、二人のにらみ合いが始まった。

 楓は最初この状況を落ち着いたものだと思っていたが、二人の眼の動きを見てそうではないことに気が付いた。顔こそ動かしてはいないが彼らの視線は瞬き一つせずに絶えずに動き回っていた。互いに相手の隙を探しながら無防備にならぬよう動きへの警戒も怠っていないのだ。仮にどちらかの視線の動きが鈍れば、相手はそれを好機と捉えすかさず攻撃を仕掛けるだろう。それこそ瞬きなどしてしまえば、一度閉じられた目はもうそれから二度と開かれることは無い。落ち着いているなどとんでもない。今や二人は視線で熾烈な剣戟(けんげき)を繰り広げているのだ。

しかし、それも永遠には続かない。人間を超越した存在とて限界はある。体力が尽きるかもしれないし、痺れを切らすのかもしれない。

 先に動いたのは貴音だった。これは妥当な結果といるだろう。長い年月を生きてきて時間の感覚に疎く、確実な勝利だけを求める首長は続くものであるのならばこの膠着を何時間だろうと何日だろうと続けていく腹積もりだったが、貴音の方はまだ若く長時間の停滞に心が適応できないのだ。そもそも貴音はこの戦いに愉悦を求めて挑んでいる。確実な勝利よりも危険の快感を味わいたいのだ。まず自分がアクションを起こし問題はそれから考える。それが貴音の戦いへの姿勢だった。

 貴音は首長の右側面へと移動すると、姿勢をかがめて刀を傾け、先端を正面に向けた。ただ斬り付けるだけではダメージは与えられないと判断し、毛並みの間のわずかな隙間から突きを通すことで、刃を皮の内まで届かせようと考えたのだ。攻撃するポイントはすでに見出してある。後は正確にそこを穿つだけだった。

「!」

 しかし、首長の表皮は貴音の想像以上の硬度を秘めていた。体毛の防御は突破に成功したものの、貴音の想定では心臓を穿つはずの刃は肉の表面程度にしか食い込まなかった。

 急いで後退をしなければという思考ごと、貴音は後ろに飛ばされ壁を粉砕し、肢体を廊下に叩きつけられた。首長は刀が自分の体に食い込んだ一瞬の隙を見逃さず、貴音にボディーブローを叩き込んだのだ。

「朱雀院さん!」

 滑らかな軌道で吹き飛ばされた貴音を見て楓は思わず叫ぶ。

 部屋を揺るがす衝撃が響く。この分では貴音が受けたダメージも少なくはないだろう。

「フム……刀から引き離そうと思ったが、上手くいかなかったか。どうやらその刀は思ったほどの切れ味は持っていないようだな。」

 貴音の戦闘能力はあくまでも血吸に依存したものにすぎないと考えた首長は、血吸と貴音を引きはがそうと考えた。それで刀が自分の肉に刺さって固定されている時に、貴音を吹き飛ばして刀を奪取しようと考えたが、貴音が血吸を手に保持し続けたことと、刀があまり食い込まなかったため肉からあっさりと抜けてしまったことの二つの要因によって目論見は外れてしまった。しかし貴音にダメージを与えることはできたため、成果は大きかったと言えるだろう。

「いてて……今のは結構効いたなぁ……」

 立ち込める粉塵の中、ガラガラと音を立てながら貴音は立ち上がるが、その息は荒く、足元は若干ふらついており、相当のダメージを受けたことが露わになっていた。

「これで力の差は分かったであろう。儂に勝つことは諦めよ、娘。」

「ハハ、諦めたらどうしてくれるの? このまま家まで返してくれるのかな?」

 貴音としては軽い冗談だったのだろうが、首長は貴音の言葉を真面目に受け止め、しばし考える。

「いや、お前は危険すぎる。お前はけだものだ。人も、人外も、見境無く喰らい尽くす悪鬼だ。ここで見逃せばさらに大きな災いとなって多くの命を凌辱するであろう。それだけは避けねばならん」

 貴音はまさか律義に返事が返ってくるとは思ってもみなかったようで、一瞬キョトンとした後に笑い出す。

「ハハッ、生真面目に御返答どーも。じゃあ……」

 そして、笑い終わったかと思うと意を決した表情へと変わり、左手首を突き出してそこに血吸を当てた。

「切り札、使っちゃおうかな。」

 貴音は、血吸を自らの左手首に突き立てた。

 血吸に新陳代謝に相当する機能が存在することに貴音が気付いたのは、血吸で初めて生き物を斬って数日の事だった。その日、貴音は血吸が何かを伝えたがっていることに気付いた。血吸は貴音だけに受信できるテレパシーのようなもので貴音とコミュニケーションをとる。コミュニケーションと言っても明確なものではなく、単に甲高い金属音のようなものが頭に響くだけだ。何やらそこには使い手だけに直感的に理解できる意味があるらしく貴音はそのテレパシーの意図を受信するたびに何となくだが理解できた。といっても血吸が発するのは専ら“快”だの“不快”だの“空腹”だのといった“感覚”の発露ばかりだが。その時は血吸を取り出してみるとその刀身は異様なほど錆びついており、肥大化していた。これはマズイと貴音が慌てて手入れしたところ、錆を落としただけで血吸はこれまでにないほどに良い状態となったのだ。まるで錆の下には最初から新品があったかのように。

 妖刀に人類の定義した物理法則を当てはめるのもおかしな話だが、どうも血吸という刀は血液の鉄分を取り込んで自らの刀身とし、その余りの成分や衰えた鉄を定期的に錆のような形で排出することで、自身を保つ能力があるらしい。つまり血吸はいくら使っても定期的に排出物を処理するだけで永遠にその形を保ち続ける不衰の刀なのだ。

 そして、血吸にはその応用とでも言うべき機能が一つ存在する。貴音の推測にすぎないが、通常は血吸が吸った血はすぐに刀身にならずに体内に蓄えられるようだ。しかし、一つの例外が存在する。   

それは使い手——貴音の血だ。

 貴音の血は血吸の使い手となる契約を交わした際、人間の物から変化している。その貴音の血を啜ると血吸は特殊な反応を示す。一瞬にして貴音の血を自らの刃(にく)に変え、形態を変化させるのだ。より重く。より鋭く。その切れ味は錆を排出した直後を軽く凌駕する。もっとも、その変化は長くて数時間程度しか保たないようなのだが。

 貴音はこれを血吸の人間で言うところの一種のアレルギー反応のようなものではないかと推測している。使い手の血を摂取せざるを得ないという異常事態に対して、血吸は攻撃性能の上昇という形の過剰な抗体反応を発現しているのだ。

 自分の攻撃が通用しないと理解したとき、貴音は即座にこの切り札を使用する決意をした。血吸を自分の手首に突き立て、血を啜らせる。

この切り札の致命的すぎる弱点としては形態変化の間は無防備となるという事があるが、突然の事態にこの場にいる全員は茫然としていて動く気配はない。特に首長は、何をしているのか理解できないので今下手に手を出すとそれこそ何があるのかわからないと考えて行動を取れずにいた。

そういった事情により貴音に血を与え、血吸の形態を変化させる時間は十分に確保された。変化には一分もかからないため最悪逃げ回りながら待つという手も存在したが、それを使わずに済んだことに貴音は内心少し安堵した。時間を稼ぎながら回避に専念するという行為は、実行した事こそ無いもののやはり精神的に堪える事は想像に難しくないからだ。

血吸に吸われた貴音の血は葉脈のような紋様を描きながら刀身を駆け巡り、やがて鏡のように煌めいていた刃が赤く染め上がった。

おぞましいまでに赫灼(かくしゃく)と輝く真紅の刀身。それこそが切り札としての血吸の姿なのだ。

「さ、戦闘再開だよ」

 そう言うやいなや、貴音は一気に首長との距離を詰める。疾走と同時に下段から八相、上段と構えを瞬時に転換させ、最終的に刀を勢いよく振り下ろした。無論、首長もそれを黙って見ていたわけではない。貴音が接近の挙動を見せると同時に、首長は後ずさりをした上で体の正面で腕を交差させ、防御の構えを取った。

 結局、貴音の攻撃の軌道上には、交差した首長の腕のみが存在することとなった。そのことを認識した瞬間、その場にいた誰もが貴音の攻撃の失敗を確信した。弱所を狙ったものではないただの一刀では、首長の防御を超えることなど不可能であることはこれまでの戦闘の経過と照らし合わせても明らかだったからだ。

「⁉ グァァァ!」

 しかし、その予測は裏切られた。攻撃の結果、首長の左手は手首から先を切断され、宙に浮かんで赤い雫を滴らせ、地べたに堕ちたのだ。

 首長は動揺しながらも貴音と接近した上で刀が下を向いている今こそが千載一遇のチャンスだと判断し、右腕で貴音を薙ぎ払う。しかしやはり片手を切り落とされた動揺が大きかったようで、無理に放たれたその一撃を貴音は一瞬で見切り、上体を逸らして回避した。そして貴音は刃を上に向けると、そのまま首長めがけて切り上げた。首長が瞬時に後退したため致命傷には至らなかったものの、剛毛に包まれた首長の胸部にパックリと傷が開く。

「グ、グオォォォ! なぜだ、なぜ儂の守りが破られたのだ⁉」

 予想せざる事態に、貴音以外のその場にいた全員が激しく驚愕した。それまで絶対的な防御力を見せていた首長の守りがいともたやすく破られたのだ。首長はもちろん、戦いを見守るだけの楓や沙也も驚きを隠せない。

 首長の片手を奪い、大きな形成の逆転を感じ取ったのか、貴音は構えを緩め、リラックスしたと言わんばかりに体から力を抜く。間違いなくこれは慢心なのであろうが、首長は行動に出ることはできなかった。貴音が油断していることを差し引いても戦いの主導権は貴音が握っており、それを破れば自分自身もただでは済まないことはよくわかっていたからだ。そんな首長の慎重さを臆病だと嘲笑するように貴音はじわじわと首長との距離を詰め、それに合わせて首長は互いの距離を保つように後ずさりをするが、やがて首長の背は壁にぶつかった。

「終わりだね」

 追い詰められた首長を見据え、貴音はニィと口角を吊り上げる。

(勝った!)

 一見追い詰められた首長ではあったが、内心では勝利を確信していた。

 首長には多少ではあるが魔術の心得があり、戦闘用の魔術も習得していた。

 接近戦における優位は失われてしまったが、射程外からの魔術による遠隔攻撃ならば勝機はある。首長はそう判断した。

 しかし無暗に攻撃したところで意味は無い。貴音の瞬発力を鑑みればすんでのところで回避されてしまう可能性は捨てきれないのだ。

 そう考えて首長は好機を伺った。距離を詰められてはいけない。しかし過剰に開けすぎては貴音を刺激して先手を取られるかもしれない。故に首長は貴音との距離を保ちつつ後退をするしか線つぁくしが無かったのだ。

 そして首長が追い詰められたその一瞬、首長は貴音の慢心が最高潮に達したことを感じ取り、すかさず呪文を詠唱する。放つは“神のこぶし”とも称される魔術。離れた相手に不可視の力を叩きつける、シンプルだが効果的な物だ。

(なに?)

 しかし、何も起こらなかった。貴音は嘲笑うような表情で悠然と佇むのみだ。

 動揺を口にしようとして気付く。言葉が出てこない。自分の口から意味のある言葉を発することができない。どれだけ叫ぼうと、激痛とともにヒュウヒュウと醜い音を立てる風が喉を吹き抜けるだけだ。

 ゆっくりと歩いてくる貴音を見て、首長はあることに気付く。そう、彼女の手に血吸が握られていないのだ。

血吸はどこに行ったのか、なぜ声が出ないのか、そして、なぜ逃げようとしても体が動かないのか。それらの物事を繋げる決定的な事実に気がつけないまま――いや、敗北を宣告するその事実から目を背けたまま、首長の頸は貴音の手によって刎ねられた。

(はい、おしまい)

 首長の血がよほど気に入ったのか、その胴体に吸い付いて離れない血吸を握りながら貴音は寂しく床に転がって苦悶の表情を浮かべる首長の頭部を嘲笑っていた。

 首長がまだ手を残していることなど、貴音はとっくに見切っていた。貴音の見た追い詰められた首長の眼は、手詰まりなことに狼狽して現実を直視できない敗者の眼ではなく、絶望の奥底に確かな理性と希望をたたえた挑戦者の眼だったのだ。

 相手が逆転の一手を持っていることを見破ったのならばやることは一つ。それを摘み取り、勝利をより確実で完全なものにすることだ。貴音は戦況と首長の対応から首長の攻撃が中・遠距離からの魔術攻撃だと判断した。そのため首長を壁際に追い込み一瞬わざと隙を作ると即座に血吸を首長の喉に投擲し、魔術の詠唱を封じたのだ。

 首長の血を飲み干した血吸を引き抜き、愛おしむ様に刃を撫でる。今日は大量に血を吸ったためだろう。刃は膨張し、満腹を訴えていた。これだけ吸えば数か月は放置しても文句は言わないだろう。しかし、貴音にはまだやりたいことが残っていた。

「さて、と」

 貴音はひとしきり血吸の状態を確認した後、呆然と立ち尽くしていた楓と沙也の方へ向き直る。二人は首長が倒される凄惨な光景を目の当たりにした衝撃で思考が止まっていたのだが、貴音の視線を受け、冷水をかけられたような錯覚を経て意識を取り戻した。

「ヒッ!や、やだぁ!殺さないでぇ!」

 沙也はガクガクと足を震わせながら数歩後ずさりをすると、腰を抜かしてその場にぺたりと座り込んでしまった。蛇に睨まれた蛙とはまさに今の状況を的確に表しているだろう。楓も逃げ出そうにも足が動かず、釘づけにされたような錯覚の中で恐怖に体を震わせることしかできなかった。

 一歩、また一歩と貴音は楓に向けて歩みを進める。正確な時間にして十秒もかからないのだろうが、楓にはその時間が永遠のように感じた。

 とうとう手を伸ばせば届く距離にまで貴音が近づいた。死を覚悟し、楓は目を閉じる。コツ、コツ、コツとゆっくり足音が接近し……楓の真横を通り過ぎた。

(え?)

 楓は思わず目を開け後ろを振り向く。そこでは、貴音が沙也の下へと歩きながら楓を見つめていた。貴音は楓が自分を見たことにくづくと、ニヤリと微笑んで視線を沙也の方へと移す。

「や、やだ――お願い、殺さないで――殺さないで――」

 とうとう貴音が沙也の真正面にたどり着く。沙也は絶望しきった表情で命乞いをする。貴音の表情は楓からは見えなかったが、無様な沙也を嘲笑っているであろうことは想像に難くなかった。貴音は沙耶の声が聞こえないかのごとく、ゆっくりと血吸を振り上げる。

 その光景を見た瞬間、楓の体に電流が流れるような感覚がした。恐怖で死んだように動かなかった肢体が反射的に動き、二人の下へと駆け出す。

「待って!」

 声帯を振り絞る。自分でもここまで大きな声が出る物なのかと驚いた。それには沙也も驚いたようで、貴音への視線を楓の方へと向けた。

 しかし、貴音はそれも聞こえないかのように一片の躊躇もなく血吸を振り下ろし沙也を袈裟掛けに斬り裂いた。

「沙也! 沙也! 沙也ぁ!」

 楓は必死で沙也の体を揺さぶる。沙也の眼は虚ろで、もはや完全に生気は無い。誰が見ても完全に彼女はもう助からないと判定するだろう。それを認めたくなくて、楓は沙耶を抱く力を強める。

「しにたく……ないよぉ……」

 沙也は虚空を見つめてうめき声をあげると、それきり動かなくなった。

 沙也の息の根が止まったとみると、貴音が楓の方に向き直る。二人の距離は、いつのまにか拳一個分といったところになっていた。

「私も、殺すんですか」

沙也の死体を抱え、精一杯の敵意を込めて楓は貴音を睨み付ける。

「いや? 血吸は首長で十分満足したみたいだから、桧原さんは別にいいかな」

 意外な返答に楓は真意を測りかねるが、貴音が血吸で楓を傷つけるつもりはないという事は確かだった。貴音の手に握られている血吸は既に鞘に収められており、わざわざもう一度抜刀するような無意味な二度手間を取る必要は全くないからだ。

「だったら、どうして沙也を殺したんですか⁉ それなら、沙也を殺す必要は無かったでしょう!」

 楓のその言葉に、貴音は楓の瞳を見つめながら答える。

「あなたは、私を殺せるかもしれないから」

 貴音の言っていることの意味が理解できず、楓はただ呆然とする。

「あなたはきっととても清い心を持った人だよ。自分の身にとんでもない異変が起こったっていうのに他人の心配ができるし、死の危機が迫っても黒田さんみたいな情けない姿は見せない。何より、今あなたはこうして臆することなく私を糾弾している。これは、あなたが正しい怒りを抱けることの何よりの証明だよ」

「……それが、どうしたって言うんですか」

「きっとあなたは、その怒りを忘れない。きっとあなたは、私という悪を許さない。だから、きっとあなたは私を殺せるようになって、私を殺しにやって来る」

 そこまで言うと貴音は楓の耳に口を寄せ、蠱惑的に囁く。

「そんなあなたを、私は殺したい」

 その瞬間、楓の怒りと殺意は爆発し反射的に貴音の首へと手が伸びた。

 しかし、その手は届かなかった。手首を掴まれたと思うといつの間にか腕を後ろに回され、地面に組み伏せられていた。混乱と激痛の中、やっと自分は何かしらの関節技を掛けられたのだという事を認識した。

「気が早いよ。いまはまだ、あなたは私を殺せない。でも、きっといつか……そのときを、楽しみにしてるよ」

 身勝手な理屈を理不尽に並べ立て、朱雀院貴音は消えた。楓はしばらく沙也の亡骸の傍で、ただ佇むことしかできなかった。

 楓の心中では確かに怒りの業火が猛々しく燃え盛っていた。しかし、それを貴音は望んでいる。この怒りは、無意味な物なのだろうか。ぼんやりと、楓は考えていた。

(——いや)

 たとえ無意味でも、たとえ届かなくても。

 許せないコトがある。絶対に、赦せないモノがある。

 (いつか、朱雀院貴音を殺して見せる)

かつて友だった屍を胸に強く抱きしめて、桧原楓は心に誓った。

吸血鬼の宴 窮鼠の章 完

吸血器の宴 2/3

こんにちは。

MBAのインターンシップに参加させていただいている、高橋樹と申します。

今回は、前回に続けて“吸血器の宴”について紹介させていただきます。

今回の紹介分より、本格的な戦闘パートが始まります。尤も、本格的とは言いましても基本的に貴音の無双ではありますが。戦闘シーンの執筆にあたり、手持ちの小説における戦闘シーン、特に刀を用いた戦闘がある作品を読み返しました。特に参考にしたのは、ナイトウィザードのノベルにおける、安堂来栖の戦闘シーンです。同作品も現代を舞台にしたファンタジー作品であり、そんな舞台における正統派剣術を使う戦闘シーンとして、該当シーンを大いに参考にさせていただきました。

今回は貴音のバックボーンにもフォーカスが当たります。当初は単純な戦闘狂にするつもりでしたが、ドラマ面を盛り上げるためと、彼女の狂気にある程度のルーツを持たせたいと思い設定しました。悪人に事情があると物語が白けてしまう、という話はよく聞きますが、作り手の側になってみると実際、悪人には事情を作りたくなってしまうものだという事を身にしみて感じました。

また、今回公開の部分からという点では登場人物である黒田沙也と首長の登場が重要です。

首長は本作品の戦闘におけるボスとして設定したキャラクターで、コンセプトとしては、“老獪な鼠(もはやネズミではない)”というものになります。沙也についてですが、彼女は主人公である楓にとってある意味この物語の元凶にあたるポジションであり、楓とは違った方向性で“非日常に巻き込まれた等身大の少女”を描いています。“楓より汚く”ということで損な役回り・描き方をされているキャラクターです。

妖刀を携えた少女による、吸血鬼を相手にしての圧倒的な大立ち回り。

興味のある方は是非、記事からご覧ください。

吸血器の宴 破

 その日の深夜。楓は家族が寝静まったのを見計らい、部屋の窓からこっそり外に抜け出した。楓の部屋は二階にあったが、窓から跳躍することで難なく家の前の道路に着地することができた。驚異的な身体能力にほんの少し感心するが、内心の殆どは自分が本当に怪物になってしまったという空しい実感に占められていた。しかし感傷に浸っている場合ではない。気を取り直し楓は夜の街へ駆け出した。

 半端物とはいえ吸血鬼の身体能力は非常に優れたもので、普段なら通れないような道のりを無理やりショートカットすることで本来ならば倍以上かかる移動時間が圧倒的に短縮された。駿馬のごとき疾走、空を駆けるがごとき跳躍、そして底が見えない体力……楓は不思議な高揚感に包まれた。一瞬ではあるが、この万能感が維持できるのであれば、怪物のままでもいいかとさえ思ってしまった。

 結局、沙也との待ち合わせ場所には楓が思っていたよりも早く辿り着いた。沙也はまだ来ていないようで、周囲に人の気配は一切ない。沙也に連絡を入れようと楓が携帯の電源を入れたその時――

 ガンッと鈍い衝撃が楓の後頭部に炸裂した。何が起こったのかを認識する間もなく、楓の意識は遠のいていく。薄れゆく視界の中で見えたのは、いつの間にか傍に立っていた数人の人間の足だった。

「う、うーん……?」

楓は気が付くと、そこはビルの中と思しいコンクリートでおおわれた一室だった。体を動かそうとするが、動かない。見ると楓の体は椅子に座らされた上で、ロープで縛りつけられ拘束されていた。

「おはよう、楓ちゃん。……この挨拶を使うの、なんだか今は変な気分だな」

拘束から抜け出そうと楓が体を動かしていると、声が掛けられる。その声は、まぎれもなく楓が探している少女の声……

「沙也っ⁉」

部屋の出入り口に、楓の友人である黒田沙也が立っていた。しかしその雰囲気は楓の知るそれとは少しばかり異なっており、元々彼女は身なりには気を使う方だったが、服装は薄汚れた学生服と普段の彼女からは考えられない格好であり、セミロングの髪も手入れをしていないのか荒れ乱れていた。そしてその表情は楓が今まで見たこともないほど沈痛であり、肌の色は死人のように青白かった。

「沙也……⁉いままでどうしてたの?心配したんだよ⁉」

 沙也の変貌に目を背けるように楓は問いただす。しかしそれは沙也から見てあまりに露骨だったのか、沙也は顔を不快そうにしかめる。

「いいよもうそういうのは。気付いてるんでしょ?私はもう人間じゃないの。吸血鬼になったんだ」

 沙也の告白に思わず楓の息が止まる。楓が衝撃を受けているさまを見るのが心地良いのか、沙也は少し表情を緩めて話し始める。

「一週間くらい前だったかな。夜、町で遊んでたら吸血鬼に襲われて、私も吸血鬼になったの。最初は戸惑ったけど、結構この体便利だからね。今じゃ吸血鬼じゃないなんて考えられないよ」

 一週間前。つまり沙也が学校に来なくなった時と同時期だ。その時からすでに彼女は吸血鬼がらみの騒動に巻き込まれていたのかと思う一方で、楓は一つの不安な予感を抱えていた。

「なんで……私を呼んだの?」

「仲間を増やすためだよ。私の仲間たちがね、いっぱい仲間が必要だって言うの。だから適当な知り合いを呼び出して、みんな私たちの仲間に変えるんだ」

「そのために……私を?」

 仲間を増やすため。そのために彼女は売ったのだ。友人を。

「ごめんね。でも……楓は何か違うよね?」

 ずいと沙也は顔を近づけ、覗き込むように楓を見つめる。その瞳に生気だとか活力だとかそういったものは感じない。そこにあるのは、負の感情という輪郭に覆われた虚無だった。

「その少女かね。沙也」

 出入り口から、しゃがれた声が聞こえた。沙也が横にひざまずき、声の主の姿が見えるようになる。

 そこにいたのは老人だった。汚れたローブのような衣服を身にまとい、埃の張り付いた髭や髪は床につかんばかりに伸びていた。かすかに見えるその細い目には知性の光が感じられ、どこか安心感を覚えさせる優しさがあった。総じて、ファンタジー作品に登場する魔法使いといった印象を楓に抱かせた。

「はい。首長様」

「どれ……」

 老人が先程の沙也がしたように楓の顔を覗き込む。彼はそこからさらに検診のように楓の顔を触ったり、目を観察したりした。老人がすぐ傍に来たことで楓は認識できたが、コロンの匂いでごまかしているようだが老人の体はひどい悪臭を放っていた。コロンと老人の体臭の相反する二つの香りは楓の嗅覚を強く刺激し、思わず楓は顔をしかめてせき込んだ。

「……ほう。確かにこれはハンパモノだ。こんな結果を見るのは初めてだが、実に興味深い」

「あなたは一体……?」

 老人は匂いを気にしたそぶりを見せた楓を気遣ったのか少し距離を置く。

「儂に名は無い。皆からは首長と呼ばれておる。キミたち人類が吸血鬼と呼ぶ存在の一集団を率いておるよ。」

「ペスト血族……?」

 貴音によりもたらされた知識と結びつけ、思わず言葉が楓の口から漏れ出る。それを耳にした首長は大きな驚きを顔に出す。

「ほう。思っていたよりも君は事情を正しく認識しているようだね……少しばかり話を聞かせてもらえるかね?」

 少し逡巡したが、楓は素直に話すことにした。今のところ彼らは自分に危害を加えるつもりは無いようであったし、話したところで生じる楓に対する不利益に思い至らなかったからである。

 昨夜の顛末、貴音の事、学校の事……楓は洗いざらいを話した。

 首長は貴音の事を話している間だけ少し表情を硬くしていたが、それ以外の話の時は穏やかな表情をしていた。同じ部屋に居合わせている沙也も楓の話を聞いていたが、当初は無表情だったが楓が学校に行った話をし出すと途端に楓を睨み付けるような顔に変化した。

「——そうか。蓮は死んだか。少し乱暴なところはあったが、根はいい子だった。」

 楓が話し終わると、首長はそう言って目を潤ませて天を仰いだ。恐らく、昨日楓を襲った吸血鬼の名が蓮なのだろう。楓は彼に対して同情のような感情を抱くつもりは全くなかったが、さすがに目の前で死を悲しまれると少しばかり胸がチクリと痛んだ。

「首長様。楓に日光の影響が無かったのはどういうことなのでしょうか」

 ふと、黙って話を聞いているだけだった沙也が発言をした。首長は沙也の方に向き直って返答をする。

「貴音という少女の推察通りだろう。我々のエキスが中途半端に注入され、作用したばかりに彼女は我らの血族の特性を不完全な状態で発現させることとなったのだ。恐らく彼女は身体能力においては我々に劣るが、日光に対する反応が我らよりもはるかに軽くなったのだ。」

「そんなことが起こりうるのですか?」

「私は聞いたことがないが、考えられないことではない。恐らくエキスがもっと少量であれば彼女は人間のままであっただろうし、もっと多ければ完全な吸血鬼と成り得ただろう。しかし、彼女が置かれたのは前例のない、半覚醒する環境だったのだ」

「彼女を今からでも完全な吸血鬼に変えられないのですか?」

 沙也の問いに、首長はしばし考える。

「……いや、無理だろう。見たところ彼女の因子は今の状態で定着している。恐らく、彼女は我々の手ではこの状態から変化させることは不可能だろう。」

「そう……ですか」

 首長の考えを聞いた沙也は、かすかにだが舌を打ちかける。そこには楓を仲間にできない悲しさなどない。怒り……嫉妬の感情があった。

「とにかく、君の今後の身の振り方については——」

 そのとき、突然に建物の外から悲鳴のような声が聞こえた。中にいる者たちが顔を見合わせていると、入口から一人の男が顔を出し、泣くように首長に叫んだ。

「首長! 襲撃です! 仲間が次々と殺されています!」

 初めて人を殺したのは、4歳の冬だった。

 そのころ祖父は重い病気に罹っており医療機器の支えがなければ死んでしまう状態で、ずっと入院していた。

 ある日、私は家族とともに祖父のお見舞いに訪れた。

 そして、祖父と父とで口論になった。さすがに4歳の時のことなので内容は覚えていないが、後から推察するに、祖父は早く死にたいからさっさと殺してくれとでも言ったのだろう。

 激しい言い争いの末、両親は祖父の担当医と話があって病室を出た。私に、おじいちゃんとお話しして待っていなさいと言って。

 しばらく沈黙が続いた。そもそも私は会話にあまり楽しみを見出せない大人しい子供であったし、別に祖父が特別好きでもなかった。また、祖父と興じれるような話題に心当たりもなかった。一応、何も話さない気はなかった。祖父が何か話題を挙げれば、それについていくつもりではあった。

 やがて、祖父は私に自分のことは好きかと尋ねた。私はそれに対してすかさず肯定を返した。本当はそこまで関心を持っていなかったが、素直に言っても快く思われないのはとっくに分かっていた。

 私の答えを聞いて祖父はそうかと安心したようにつぶやいた後、自身につながっている何らかの医療機器の管を指さし言った。

「ちょっと、この管を外してくれないか。」

 私はそれが何を意味しているのか分からず――いや、本当はわかっていたのかもしれない。どちらにせよ、私はそれをすぐに実行した。

 祖父はしばらく穏やかな顔をしていたが、やがて苦しみ出した。はじめは平静を保っていたが、激しくもがくまであまり時間はかからなかった。

 そばにあった機械が、ピーピーと電子音を鳴らす。

 ただじっと見ている私など目に入らぬ様子で祖父は暴れ、何事かをわめき、やがてナースコールに手を伸ばした。

 しかし、祖父はそれを押すことはかなわず、小さなつぶやきを残して間もなく意識を失った。

 その様の——なんと無様だったことか!こともあろうに、祖父の最後の言葉は“しにたくない”だったのだ!

 私は幼子ながらに激しく興奮した。死という概念ははっきりとはわかってなかっただろうが、死を決意した老人が、自傷の果てに死に恐怖した中死んだのだ!

 私はあまりの興奮に、その場で失禁してしまった。

後にも先にも私の失禁はあそこだけだろう。

その後のことはあまり覚えていない。

むしろ祖父の死の記憶だけが、あの頃の私の記憶としては鮮烈に記憶に残りすぎているのだ。

 これが私――朱雀院貴音が初めて生命を奪った瞬間だ。

私が死……特に人の死に対して大きな関心を寄せるようなったのは、間違いなく祖父の殺害に起因している。

やがて私はさらなる殺人を欲した。

しかし、人を殺すというのはなかなか厄介なことだ。何も準備していなければ、きっと私はあっさり捕まってしまうだろう。自由を好む私としては、それは避けたいところだった。かといってしっかり準備をすればいいのかというとそうでもなく、一、二回程度であれば隠し通すことも不可能ではないと考えているが、自らの欲求を満たすのにその程度の屍では足らないことに、貴音は自分が一番わかっていた。しかし自分の心の幸福を求めて人を殺し続ければさすがに事が露呈しかねない。そこまで気を遣って実行するくらいならば、いっそ殺さない方がマシだと思った。

 だから私はたまに暇をつぶしに動物を殺した。

 動物であれば人間ほど社会が騒然とすることもない。適当な頃合いを待てばほとぼりが冷めるだろうし、隠蔽も楽だ。漠然とした不満を感じながらも、そうやって自身の欲望を直接開放することを我慢し続けてきた。

……血吸と契約する日までは。

 ペスト血族の現在の拠点は町の一角にある廃ビルだった。基本的に衛生観念が希薄な彼らは下水道に住処を作ることが多いのだが、最近仲間がかつてないほどのペースで増えており、吸血鬼になったばかりの者ではまだ不潔な環境に嫌悪感を示すため、一旦廃ビルに居を構えていたのだ。

 この日の見張りはスキンヘッドの男と金髪の男が担当していた。しかし見張りと言っても特にする事もなく、二人は適当に話をして時間を潰していた。

 やがて、談笑に勤しんでいた二人は少女が廃ビルに近づいてくることに気が付いた。その容姿は二人が今までに見たどんな女性よりも美しい、天上の美とでも呼ぶべきものだった。

 そんな少女の美貌を見て、二人の男はどうせ暇なのだからと少女を襲うことに決めた。本来ならば首長によって人間を襲う事と仲間を増やすことは厳しく管理されているのだが、最近、首長の側近たちはこれまでと打って変わって積極的に仲間を増やすような行動を奨励している。首長自身はその流れを快く思っていないようなのだが、そんなことは吸血鬼たちにはどうでもよかった。本能のままに力を振るい、血を啜り、仲間を増やす。それは吸血鬼にとって至上の幸福と快感に他ならないのだから。

「お嬢さん、こんなところで何をしてるんだい?」

 スキンヘッドの男が声をかける。それを受けて少女は、蠱惑的な微笑みを浮かべた。

「そうだね……ネズミの駆除、かな」

突然、金髪の男の顔に何かの液体が飛びついた。男は慌てて服の袖口でそれを拭う。そして、その匂いが鼻に届くと同時に反射的に男は液体の正体に気付いた。これは血だ。それも人間のものではない、自分と同じペスト血族の吸血鬼の血だ。

「おい――! ヒィィィ!」

声を掛けようとして、金髪の男はスキンヘッドの男の変わり果てた姿を目撃した。彼は、上半身と下半身に両断され、地べたに転がっていた。金髪の男にかかったのは、彼の血だ。少女の方を見ると、いつの間にかその左手には鞘が、右手には刀が握られていた。

「これで、まずは一匹だね」

 少女は満足げに舌なめずりをする。その光景に、金髪の男は吸血鬼になってこの方一度も感じたことのない恐怖という感情に支配されていた。

「な、な、な、なんなんだオマエェェェ!」

突然の事態に正気を失いながら、金髪の男は後ずさりをして戦闘形態へと変貌する。ペスト血族は種族特徴として鼠のような戦闘形態への変化を保有しており、その姿では人間の姿の時よりもはるかに高い戦闘能力を発揮できるのだ。

「二匹目」

 だが、それが活かされることは無かった。少女は金髪の男が後退して開けた距離を一瞬で埋めると、突きを炸裂させた。その攻撃の迅さと正確さは正に神業。男は少女が移動した事は愚か構えを取ったことすら認識できず、心臓を穿たれた。

「アァァァァァ!」

 周囲に男の絶叫が響き渡る。その声はビル内まで届き、血族の多くが見張りに異常が起こったことを察知しただろう。絶叫しながらそのことに思い至った男は、心にいくばくかの優越感が生まれ苦し紛れに笑顔を浮かべて少女を睨み付ける。

 しかし、そんな男の優越感はすぐに砕かれた。少女はもはや男など見ていない。その視線は、廃ビル……いや、廃ビルの中にいるであろう吸血鬼たちに向けられていた。   

その時彼は少女が自分たちを全滅させる腹積もりであることに気付いた。そして、彼女はそれに足りるだけの実力を持っているであろうことも。

 助けへの懇願は誰も来てくれるなという哀願に切り替わる。男の思考はそこから遷移することは無かった。少女は刀で男の頭部を砕くと、あたりに脳漿をまき散らした。

十数人ほどの吸血鬼たちが廃ビルから出てくる。そのほとんどがすでに戦闘形態への変化を済ませており、変化していなかった者たちも見張りの惨状を目に入れるや否や戦闘形態に変化した。

数多くの吸血鬼に囲まれてなお、少女は不敵な笑みを浮かべる。当然だ。彼女にとって自分を取り囲んでいる者たちなど、贄の群れに過ぎない。果たして肉の林を前にして、ほくそ笑まぬ虎がいるだろうか。

敵を切り刻む感覚を切望し、少女は刀を構えた。

突然の事で楓には何が起こっているのかわかりかねたが、報告した吸血鬼と首長の会話を横から聞いて、少しずつ事態を認識しだしていった。

まず、どうやらここが何者かに襲撃されているという事。その何者かはたった一人にもかかわらず吸血鬼たちの群れをものともせずに圧倒していること。そして——

「その襲撃者は例の“娘”か?」

「恐らく」

 その“襲撃者”に吸血鬼たちは何らかの心当たりがあるという事だった。

 仲間たちに指示を出していく首長を尻目に、楓はこの部屋への待機を命じられた沙耶に話しかける。

「えっと、沙也。沙也は今襲い掛かってて来てる人のこと、知ってるの?」

「たぶん、幹部の人たちがよく言ってた“脅威”だと思う」

「脅威?」

「……最近、この辺りで私たちみたいな魔物が次々と殺されてるらしいの。幹部たちはそれを恐れてた。だから最近仲間を積極的に増やしていって、それで私まで――」

 沙也はそこまで言って目を細め、楓から顔をそむけた。それから楓が声をかけても返事をしなくなった。

 襲撃者に関する報告が耳に入るうちに、やがて楓の中である疑念が育っていった。

 曰く、美しい少女である。

 曰く、刀を持っている。

 曰く、歓喜に満ちた表情で仲間たちを惨殺していっている。

 そんな報告が一つ一つ届くたびに、楓の胸の内に芽生えた予感は少しずつ説得力を増していった。

 一人、楓には思い当たる人物がいる。恐らく、その人物に間違いないだろう。しかし、なぜ彼女は襲撃をしてきたのか。楓を助けるためだろうか。しかしそれにしてはやり口が荒っぽいように思う。ではなぜ?そこまで考えて、そもそも楓は昨日なぜ貴音が楓を助けたのか聞いていないことに気付いた。これまでは人が襲われているのを放っておけなかったのだろうと勝手に解釈していた。しかし、あの時の貴音の態度は明らかにそれと異なっていた。もしも、彼女は楓を助けたのではなく、単に吸血鬼を襲っただけにすぎないのだったら?

「ギャァァ!」

とうとう戦闘音が部屋のすぐ外で聞こえるようになった。金属音と悲鳴の合唱が鳴り響く。やがて、一人の少女が入口に姿を見せた。

「朱雀院……さん?」

 刀を手にし、血塗れでそこに立っていた朱雀院貴音は、楓に笑顔を返した。

吸血器の宴 1/3

こんにちは。

MBAのインターンシップに参加させて頂いている、高橋樹と言います。

今回紹介いたしますのは、“吸血器の宴”という作品です。この作品は私がこれまで執筆してきた中では破格の文量を誇っており、その文字数はなんと二万五千字にも及びます。そのような作品であるため、この作品は三分割で公開・紹介させていただきたいと考えております。

誤字をお疑いになられた方もおられるかもしれませんが、この作品の題の漢字は吸血“鬼”ではなく吸血“器”となっています。これは物語の中核となる吸血鬼が、生物ではなく器物であるためです。

今作のジャンルも、前回紹介した“蚊相撲”同様現代を舞台としたファンタジー……伝奇モノとなっています。ただし、どこかほのぼのとした雰囲気を持っていた“蚊相撲”と異なり、“吸血鬼の宴”は殺伐とした作品になっています。これはこの作品のスタートが、戦闘に主眼を置いた作品を書きたい、という欲求であったためです。

吸血鬼、刀、少女といったベースモチーフの構成要素はアニメ“BLOOD+”の、吸血鬼にまつわる基本的な設定や世界観は、TRPG“ビーストバインド”シリーズや、“ヴァンパイア:ザ・マスカレード”の影響を強く受けています。

普通の少女、桧原楓が非日常の世界に足を踏み入れてしまい、謎の少女、朱雀院貴音との邂逅や楓の肉体への異変が、楓に何をもたらすのか……

興味のある方は是非、記事からご覧ください。

吸血鬼の宴 序

「ッ――!」

 夜の路地裏。光の差さない暗がりの中で、これまでの人生一度も味わったことのないような激痛が桧原(ひのはら)楓(かえで)の首筋から全身を貫いた。痛みと恐怖から絶叫を上げようとするが手で口を塞がれ、叫ぶどころか呼吸さえまともにできない。声が出ないのでは助けを呼ぶことができない。

 楓の首筋にはニット帽の男が噛みついていた。街を歩いていた時、突然この男に無理やり路地裏に連れ込まれ、壁に押さえつけられたのだ。

体を押さえている男を何とか引きはがそうともがくが男の力は強く、引きはがすことは不可能に思えた。

通りのほうを見やる。人通りがないというわけではないが、仮に声が出たとしても、男が楓の首筋に頭を沈めているのを見れば、ただのカップルのじゃれあいと勘違いされてしまう可能性もある。

(誰か……! 助けて……!)

強く目を閉じて痛みを堪えていた、その時だった。

「グアァ!」

 突然、男が口を離した。と思うと、楓の体を突き飛ばし、路地の奥へ逃げるように駆けた。

 「ゴホッ! ゴホッ、ゴホッ、グエグゥッ!」

 拘束から解放され、楓の体が自由になる。全身から力が抜けその場にしゃがみ込み、激しくせき込む。

 息が整いそれに伴って頭が平静になるにつれ首筋の痛みが主張を強めていく。手を触れてみるとどうやら出血しているようだった。しかし、楓はどうにも初めに感じた痛みよりも今の痛みは弱すぎると感じた。感覚が鈍ったのだろうか。

「なんなんだテメェ!」

男の発した叫びに楓は初めて周りに意識を向けられるようになり、男を見やる。暗がりの中ではあったが男の姿を見ることは難しいことではなかった。男の瞳は血がごとき紅に輝いていた。男は、獣のような表情で正面を睨み付けていた。その視線の先は、明らかに自分ではない。楓が男の視線をたどると——

 まず目についたのは、その手に握られた刀だった。血に塗れてなお、不気味な輝きを放ち、楓は見ているだけで自分が斬られたような気分になった。

 そして、その刀を持っていたのはいままで楓が見たこともないほど美しい少女だった。その長い黒髪はどんな闇よりも、暗く、深く、黒い高級ブランドと思しい服からはみ出た肌はどんな雪原よりも白く、儚かった。そして、少女はすべてを包み込む聖母のように、穏やかに微笑んでいた。

 少女は刀を男に向け、嘲るように男の問いに答える。

「通り魔、かな」

「フザケンナァァァァァ!」

 少女の言葉に男は激昂したようだった。表情はより一層険しくなり、瞳の赤い輝きも強くなる。

そして、その変貌に楓は己が目を疑った。男の体は突如パンプアップし、ネズミの頭をしたゴリラとでも言うべき異形の姿へと変貌したのである。

その非現実的な光景を見つめてなお少女は不敵に笑っていた。その表情は、獲物を前にした獰猛な肉食獣を思わせた。

「シネェェェェェ!」

怪物となった男は少女に飛び掛かる。それに対して、少女は刀を構える。

一瞬、光の線が煌めいたように見えた。

気が付くと怪人の肉体は、腰から上下に両断されていた。二つの肉塊は零れるように地面に落ちた。断面からはじわじわと血が広がっていた。

「やっぱりあまり大したことは無いか」

そう残念そうに言うと、少女は肉塊の浸っている血だまりに刀を突きたてた。すると、ゴキュ、ゴキュ、とまるで飲み物を嚥下するような音とともに血だまりが縮んでいった。それは、刀が血を飲んでいるとしか言いようのない光景だった。

「う、うーん……」

 もはや楓は限界だった。一瞬眩暈がしたと思うと、楓の視界は真っ暗になり、そのまま意識を失った。

「う……あれ……?」

「あ、起きた?」

 横から聞こえた声に反応して楓は飛び起きる。この声は紛れもなくあの刀を持った少女の声だ。声の聞こえた方を確認すると、テーブル越しにあの少女が紅茶を飲んでいた。

「マスター。この子にコーヒー1杯」

 少女が声を張り上げる。周りを見回すと、ここはバーのようだった。どうやら楓はここのソファの席に寝かせられていたらしい。店は閉まっているのか照明はあまりついておらず、客の姿はなかった。ここにいる人間は楓と、少女と、少女が声をかけた店員と思しき壮年の男性の3人だけだった。

「あ、あの……ここは一体?」

「ここは私の馴染みのお店で、“Bat Box”っていうバーだよ。まあ、私は喫茶店代わりに利用してるけど。あなたが倒れた場所と近かったから、マスターに頼んで場所を貸してもらったの」

「えっと、その、ご迷惑をおかけしたようで……」

 コーヒーを運んできた壮年の男性——“マスター”に楓は頭を下げる。マスターは無言でコーヒーを楓の前に置くと、気にするなというように楓を手で制した。

「大丈夫。どうせここはあまり客が来なくても問題ないし、こうやってお店を貸すのもしょっちゅうだから」

「あ、はあ。そうですか……」

 しばらく沈黙が流れる。楓は混乱していた。なぜだか今の状況に現実感がわかない。意識を失うまでの記憶は夢か何かだったのだろうか。確かに突然怪物に姿を変えられる男に襲われて、そこを刀を持った少女に助けてもらったというのはそれこそ夢としか言いようのない出来事だ。しかし、そこに強いリアリティーがあったことも事実だ。現に楓の首筋を襲った痛みは——

 そこまで考えて楓は今痛みを感じないことに思い至り首筋に手を触れる。そこに傷は無かった。男に食い破られるのではないかと思うほどの力で噛みつかれたのだ、何の傷も残らないわけがない。やはりあの光景は夢だったのだ。そうだ、そうに違いない。ほのかな違和感を胸に抱きながらも、楓は自分に言い聞かせるように納得した。

 そんな楓を少女は目を細めて見つめている。

「あ、あの、助けていただいてありがとうございます。私、桧原楓と言います。この度はなんとお礼を申し上げればよいか……」

「いいよいいよ。たまたま目についただけだから。私は朱雀院(すざくいん)貴音(たかね)。桧原さんは見たところ学生みたいだけど今いくつなの?」

「あ、私は十六で、今高校二年生です」

「ああ。じゃあ私と同じだね」

「あ、同じだったんですか」

 少女――貴音の年齢に楓は少なからず動揺した。 貴音はどうにも見ただけではその年齢を判別しがたいのだ。 整った顔立ちは大人の成熟さを感じさせるが、 立ち居振る舞いはまるで気まぐれな子供のようだ。そんな彼女が同じ年齢というのはなんとなく意外な気がしたのだ。

「それで、桧原さんはどうしてこんな時間にあんなところにいたの? 見たところ遊んでいるようには見えないし」

 その発言を聞いて楓は急いであることを確認しなければならないと反射的に思い至り、携帯を取り出してSNSアプリを起動した。しかし、そこに楓の期待する人物の連絡はなく、家族からの安否確認が大量に届いているだけだった。

 画面から顔を上げると、貴音と目が合った。相手が話している最中に突然携帯を取り出したにも関わらず全く気にしていないようで、優しく微笑んでいる。助けてくれた恩人であるのだし、彼女は信用できそうだと感じた。

「その、友達に呼び出されたんです。学校が終わったら、誰にも言わずに来てほしいって。その子……黒田(くろだ)沙也(さや)って言うんですけど、先週からずっと学校に来てなくて……私心配して、それで……」

「ふーん……それで、その子から連絡はあったの?」

「いえ……どうしよう、さすがに今から行ってももういないかな……」

「……そうだね。桧原さんを拾ってからもう三時間くらい経ってるし、今日はもう遅いから行かないで帰った方がいいと思うよ。ご家族も心配してるだろうしね」

「そ、そうですか。そうですよね。じゃあ、もう大丈夫なので帰ります。いろいろと、ありがとうございました。」

 楓はSNSで沙也には行けなかったという事と連絡を乞う旨を書き込み、家族に対してこれから帰るという事を伝えた。沙也の方に反応は無かったが、家族は今まで見たこともないような速さで帰ってくるよう返答してきた。

 席を立って荷物を持とうとした楓に、貴音は一枚のメモを差し出した。

「これ、私の連絡先。何か困ったことがあったら、いつでも言っていいよ。たぶん、力になれると思うから」

「あ、ありがとうございます。それじゃあ!」

 メモを受け取ると楓は慌ただしく店を出た。それを視線で見送ると、後に残された貴音は紅茶を一口すすり、楓のいた名残であるコーヒーをしばらく不気味に微笑みながら見つめていた。

 帰り道で、楓はSNSの沙也の欄を見ながら彼女の事を考えていた。

 黒田沙也は楓の小学校低学年からの友人だ。十年程度の付き合いがある。出会いはあまり覚えていないが、仲良くなるきっかけは席替えで隣の席になったことだった。いろいろと話があった二人は仲が深まり、互いに相手が志望することが同じ高校に入る強い動機になる程の友人となった。楓にとっては、親友と言って差し支えない。実際、お互いの最も仲の良い友人はお互いだという自信が楓にはあった。

 高校に入ってからは、二人の距離は少し離れることとなった。沙也は先輩に誘われて夜遊びを覚え、それに慣れていったが楓は抵抗感を拭いきれず、入学以来同じクラスになったことがないことも相まって楓が沙也と接触する機会は減ったのだ。しかし、それで弾に二人で遊びに出かけたり、勉強会をする機会があったりと、交流が失われたわけではなかった。

 しかし一週間ほど前、突然沙也が失踪した。いつものように夜遊びをしている最中に、突然行方知れずになったという。これまで沙也は学校を無断欠席することは無かったが、周囲の人間からはそれをやったところであまりおかしくはない人物としてカテゴライズしていたようで、誰も彼女の行方を知らないことが発覚したのはなんと沙也が学校に来なくなって三日だった。楓自身も、学校に来ていないことは知っていたが体調不良か何かだろうと考え当初はあまり深刻に捉えていなかった。そして彼女が学校に来なくなって一週間。周囲がすっかり喪失した沙也への心配を楓が抱き続けていると、放課後に突然沙也から学校が終わったらまっすぐ指定した場所まで来てほしいと連絡があったのだ。

 楓はそれを確認すると一目散に待ち合わせ場所へ向かったが、途中で意識を失ってしまったのだ。

 楓が待ち合わせ場所に訪れず、その旨をSNSで発言したにもかかわらず沙也からの連絡はない。沙也がいなくなった時のように、また不気味な沈黙が流されるだけだ。今沙也はどうしているのだろう。そんなことを考えながら、楓は帰途についていた。

「暑い……」

 翌日。楓は朝起きてからというもの異様な倦怠感に包まれていた。最初は昨夜帰りが遅くなったことで就寝時刻が遅くなったことに起因する寝不足かと思ったが、どうにもおかしい。日光が非常に強力に感じるのだ。その強さときたら真夏の猛暑すら生ぬるいと言えるほどだ。昨日までは五月としては過ごしやすい涼しい気候であったはずなのに。しかし、それは楓の体感にすぎないようで、テレビの気象情報も、周囲の人間の態度も、明らかに昨日と変わらぬ気候を示していた。

 これはいったいどういうことなのだろうか。朝に弱く、日光に弱いなどまるで――

 そこまで考えて楓は思考を呑み込む。そんなことがある訳がないと。

 しかしそんな楓の疲労は体育の授業でピークに達した。太陽の光に晒されたグラウンドでの活動は今の楓にとっては幾千の矢に射られている様なものだ。発汗が止まらず、呼吸が荒くなる。とうとう限界を感じて楓は保健室へと転がり込んだ。保健室の養護教諭も楓の様子がおかしいことを一目で理解し、簡単な処置をしてすぐさまベッドに寝かせた。保健室の電灯から隠れるように、楓は毛布をかぶってうずくまる。それだけで、なんだか体調がよくなったような気がしたが、それを感じることで楓の内心は体調とは逆に冷えていった。

 養護教諭は風邪だと判断したようで、楓に早退の確認を取った。楓はすぐさまそれに了解し、養護教諭は楓の早退の準備のために保健室を出て行った。

 しかし、他ならぬ楓自身にはわかっている。これは風邪などではない。そんな尺度では測れない、得体の知れない何かだ。名状しがたい恐怖におびえながらベッドの中で震えていると、ふと昨夜貴音に渡されたメモのことを思い出した。彼女なら、何か知っているかもしれない。力になってくれるかもしれない。楓はそう確信した。

 しかし、なぜか彼女がこの事態を打開することを期待すればするほど、今感じている恐怖とは別の不安が楓の心の底から沸き上がり続けるのだった。

 楓の連絡に対する貴音の対応は実に迅速で、待ち構えていたのではと思わせるほどだった。とにかく会って話をすることが必要だということで二人はBat Boxで待ち合わせることとなった。陽射しに照り付けられる中、楓は建物の日陰を転々としながらなんとかBat Boxにたどり着いた。店の扉には閉店の看板が掛けられていたが、どうやらすでにマスターに話は行き届いているようで店の中に入ると同時にマスターは無言で奥の個室へと案内した。薄暗く、気味の悪い部屋ではあったが、陽の光をできるだけ浴びたくない楓としては非常に好都合であり、そこでマスターの入れたコーヒーを飲みながら待つことにした。

 貴音はそれからほどなくして姿を現した。どうやら彼女も学校帰りらしく、高価そうなあまり見ない制服姿で、剣道の竹刀のケースを肩にかけていた。

「朱雀院さん! あのっ、私ッ!」

「うん。まずは落ち着いて。ゆっくりと自分の身に起こったことを整理しようか」

 楓は朝からのことを包み隠さず、丁寧に説明をした、貴音は終始笑顔を崩さず、時折質問をはさみながら静かに楓の話を聞いていた。

 やがて楓の話を聞き終えた貴音は少し思案した後、満を持して口を開いた。

「桧原さん、あなたは吸血鬼になったみたいだね」

「……え?」

 思考が停止する。体が芯から凍り付くような感覚がした。

「何を、言ってるんですか?吸血鬼なんて、そんな――」

「昨日噛まれたでしょ? ほら、よく言うじゃない。吸血鬼に噛まれた人も吸血鬼になるって。あれだよ」

 突然、昨日の記憶が揺り戻される。夢だと思っていた、夢だと思いたかった記憶。

「いや、だって、その、あれは夢で――」

「ああ、夢だと思ってたの? まあそう思いたくもなるか。でも、現実なんだよね」

 駄目だ。駄目だ。ダメだ。だめだだめだだめだ。聞いてはいけない。キヅイテハイケナイ。

「そんな、そんな、そんなの——」

「ああ。じゃあ、夢じゃない証拠を見せようか」

 そう言うと、貴音は楓に向かって左腕を突き出した。白く、長く、細く、美しい腕。その腕に貴音はいつの間にか右手に握っていた短刀で傷をつけた。白い肌が裂け、そこから血があふれ出てテーブルに零れていく。卓上には瞬く間に血の池ができた。

「! 何を――」

 しているんですか。そう続けようとしたとき、楓は貴音が手にしたものを見て言葉を失った。貴音は竹刀のケースから一振りの刀を取り出した。その透明にすら見えてしまう刃の美しさは、まぎれもなく昨日のものと同一だ。

 貴音は刀をトンとテーブルに乗せ、血の池に突き立てた。すると、ジュルルとストローで飲み物をすするような音とともに、血だまりは瞬く間に刀に吸い込まれて跡形もなく消えてしまった。

「これで信じてもらえたかな?実は私も吸血鬼なんだよね。厳密には私がじゃなくてこれがだけど」

 貴音は愛おしむ様に刀を撫でながら言う。

「吸血器とでも言おうかな? この刀——“血吸(ちすい)”って銘なんだけど、これは生き血をすする妖刀で、私はこれと契約して振るうための器になってるの。それで私の体は人間を逸脱しちゃってるの。まあ私の場合はいろいろ便利だからこの状態は気に入ってるけど」

 貴音は唖然とする楓をよそにつらつらと自身についての説明をする。そのほとんどは楓の頭に入らなかったが、唯一つハッキリしていることがある。吸血鬼が実在し、昨日の記憶も現実であった以上、自分もまた吸血鬼と化したという事実を認めざるを得ないことだ。

「私……本当に吸血鬼になっちゃんですか……?」

「ま、そうだろうね。……少し解せないところもあるけど。」

「え?」

「吸血鬼にもね、いろいろ種類があるの。私はこの刀に依存した存在だから特別だけど、大方の吸血鬼は血族に分別できるの。」

「血族、ですか?」

「そ。まあこの血族もそりゃもう数えきれないくらいあるんだけど、昨日桧原さんを襲ったのはペスト血族の吸血鬼だね。噛みついてエキスを注入することで自分と同じ血族の吸血鬼に変えられるの」

「じゃあ、私もそのペスト? 血族なんですか?」

「うん、そこなんだけどペスト血族は本来日の光が致命的なまでに苦手なんだよね。それこそステレオタイプな吸血鬼よろしく直射日光なんて浴びたら一瞬で灰になっちゃうの」

「あれ? でも私は今日、日の光を浴びてもそこまでは……」

「……私も吸血鬼の事にはあまり詳しくないからあくまでも推測なんだけど、昨日私は桧原さんが噛みつかれている最中に、私が攻撃して邪魔したじゃない? それで人間から吸血鬼への変化が中途半端になってしまったんじゃないかなって思うんだ」

「じゃあ、私は今、半分だけ吸血鬼ってことなんですか?」

「たぶんそうだろうね。今度しっかりと調べてみるけど」

「私……これからどうすればいいんですか?」

 それが、楓が今一番知りたいこと。もっとも重要なことだ。楓のその問いに、貴音は少し思案してから答える。

「それは、私が決める事じゃないかな。たた、選ばなくちゃいけない選択肢を提示することはできる」

「選択肢……?」

「うん。人間のフリをして日常を謳歌するか。化物のフリをして日常を捨てるかだよ」

「!」

 残酷な選択肢。昨日まではただの少女だったはずの楓に唐突に突き付けられたそれに、楓はただ俯いていることしかできなかった。

「どのみち今は考える時間が必要かな。これを渡しておくよ」

 そう言うと、貴音は楓にお守りのようなものを差し出した。それには、漢字のように見えなくもない奇妙な文字のようなものが書いてあった。

「それは日除けの護符でね。私も使ってるんだけど、ある程度なら日光の影響を押さえて活動できるの。陽の光を浴びただけで死んじゃうような種族なら効果は無いけど、今の桧原さんならたぶん大丈夫かな」

「……ありがとうございます」

 楓は半信半疑で護符を受け取る。こんなものを持っているだけで本当に日光の影響が和らぐのだろうか。もっとも非現実性について考えるのは自分が吸血鬼になっている以上野暮な話なのだろうが。そんなことを考えていると、携帯が振動をした。何の通知だろうかと気になり、楓はこっそり画面を覗き見た。

「えっ⁉」

 思わず声が出た。携帯の画面が告げたのは現在行方不明となっている楓の友人の沙也からの連絡の通知だったのである。突然の事に貴音が訝しげに楓を見る。

「す、すみません、ちょっと待ってください」

 楓はSNSアプリを起動し、連絡の内容を確認する。

「あの、昨日の話、覚えてますか? 私が街に出た理由」

「ああ……お友達から連絡でも来たの?」

「はい。といっても内容は大体昨日と同じで、指定する場所に来てほしいってことです。ただ、今回は夜にきて欲しいって書いてますけど」

「それで、桧原さんは行くつもりなの?」

「はい。大事な友達の頼みですから」

 沙也から連絡が来たことで、楓の心境は表面上落ち着いた。楓は自覚していないが、それは、一種の逃避と言えるものだ。自分の身の振り方を先送りにし、沙也の件に注力することで一旦考える事を放棄しているのだ。

「それじゃあ、今日はお世話になりました。また今度、いろいろとお話ししましょう」

「うん。またね、桧原さん」

 楓は身支度を済ませると、足早に店を出ていった。

「マスター。今日は上から帰ってもいい?」

 楓が店を出てしばらくして、片付けのために席に近づいたマスターに、貴音はそんな質問をした。マスターは無言の首肯で答えると、ポケットから一つの鍵を取り出し、貴音に手渡す。

「ありがとう。鍵はまた明日返すよ。はい、お勘定」

 貴音はマスターに料金を支払うと、指で鍵を回しながら鼻歌交じりに屋上へと向かった。顔に、嗜虐的な微笑みを浮かべながら。

蚊相撲

こんにちは。

MBAのインターンシップに参加させて頂いている、高橋樹と言います。

今回紹介させていただく拙作は、“蚊相撲”という作品です。

皆さんは、“蚊相撲”という狂言をご存知でしょうか。ざっくりと言ってしまえば、大名が蚊の精と相撲勝負をするという作品です。題からも分かる通り、この狂言は私の作品の題材となっている作品です。

現代を舞台に、人ならざる存在ととある少年の交流を描いたお話です。伝奇モノ、と呼べばよいでしょうか。そんなファンタジー色のある作品です。

執筆時期はちょうど夏季休暇前頃であったため、夏を舞台にした作品を書きたい、と思いそもそも話の土台にする夏としてのテーマを考えだしました。そして海、山、蛍……といったように夏を彷彿とさせる要素を一つ一つ思い浮かべていく中で、“蚊”の一文字が浮かび上がった瞬間、先述の狂言、“蚊相撲”が頭をよぎりました。これの現代版を書こう。そんなことが思いつき、設定を埋め始めました。怪異の存在を知ってはいるものの深くかかわった事のない少年と強力な妖物の交流。そんな主な流れが考えつき、主人公の誠二と妖、そして二人の橋渡しをする兄の蛍一の設定が決まりました。蛍一が女装の男性になったのは当時女装男子にハマっていた、というのが大きな理由で、女装の似合う兄を意識してしまいそうな弟と、それをからかうように奔放にふるまう兄の組み合わせは、書いていてとても楽しかったです。

少年と妖、一夏の不思議な交流。

興味がある方は、是非、記事からご覧ください。

蚊相撲

「なあ兄貴。 いつまで歩かせるんだよ」

 深夜の山奥。高校2年生としては少し大柄な体格を持つ少年、和魂誠二(にぎみせいじ)は兄と共に山奥を歩いていた。木々が鬱蒼と生い茂っているが、今夜は明るい満月が出ており、 月の光に照らされて視界は悪くはなかった。

「悪いな誠二。あと少しだ」

 誠二の言葉に少し先を歩いていた兄、蛍一(けいいち)が振り向いて答える。その中性的な声には奇妙な魅力があり、思わず安らぎを覚えてしまう。

 蛍一の格好は男性としては率直に言って異様といって差し支えないものだった。顔だけを見てしまえば童顔の美少年といった風貌なのだが、なんと巫女服を身に纏っているのだ。

しかし蛍一はそれを見事に着こなしている。その所作は完全にやんごとなき女性のそれであり、知らぬものが見て彼の性別を正しく判断することは不可能だろう。

いや、知っていても難しいかもしれない。現に生まれてからずっと一緒にいる弟の誠二でさえ時折間違えてしまいそうになるのだ。

 なぜ彼がそんな恰好をしているのかについては兄弟の家である和魂家が代々巫女の家系であり、いわゆる退魔師のようなことも生業にしていることから語らねばなるまい。

 誠二は詳細を知らないが、大昔に凶悪な怪物が現れた時、神の加護を行使して撃破したことが家の成り立ちだと聞いている。

 それ以来外法の存在と戦う事が家業となり、跡取りにはそれに見合う強大な霊力を扱うための高度な素養と教育が求められ、長い年月の間に試行錯誤された。その結果今代まで用いられている技法の1つが日常的に異性の服を着用する事である。

 以前蛍一が解説したところによると、 女性が生来持つ霊力と男性が生来持つ霊力というのは別種のモノであり、恰好や生活を異性のものに近づけることで両方の霊力を取り入れることが可能になるのだという。 また、神やその他の霊的存在は男性よりも女性を好む性質を持つことがあり、神事に携わる男児が女装をする儀式というのはあまり珍しくはないのだという。

 その他にも様々な理屈を蛍一は述べたが、 それ以上細かいところまで誠二は覚えていない。

……しかし、誠二は蛍一が語った理屈自体は正しいのであろうが、 女装はそれとは別に彼の趣味でもあるのではないかとも考えていた。

事実、蛍一の解説が終わった後、誠二が少しふざけて結局そんな恰好をしているのは趣味なのではないかと尋ねた時、 蛍一は貞淑な乙女のごとく恥ずかし気に頬を赤く染め、はにかみながら否定したのだ。あれは明らかに照れ隠しだ。

あの時の顔は忘れられない。 誠二が弟でなければ、男だと知っていても恋に落ちてしまいそうな破壊力があった。

その時のことを思い出すたび、蛍一はよくぞ理性を保ったと自分を褒めたたえたくなる。

とまあそういった事情で巫女服を纏う兄、蛍一とともに弟である誠二は山の奥を蛍一の導くままに歩き詰めていた。

なぜこんな場所にいるのか。それは誠二も知らない。突然蛍一に夜は空いているかと問われ、首を縦に振るなり連れ込まれたのだ。見当がつくはずもない。

「おい兄貴。 いい加減どういうつもりなのか教えてくれよ」

 歩き出してからもう何度目かもわからない質問。訊いたはいいが誠二はまともな答えが返ってくることを半ば諦めていた。

 しかし、蛍一の返事は予想と異なっていた。

「大丈夫だ……もう、着いた」

「え?」

 蛍一はいつの間にか足を止めていた。気付けば、開けたところに出ていた。数メートル程度の池……というよりは湿地と言うべきだろうか。その上には屋根のように今までの道中影を落とし続けた木々はなく、直接満月の光を受けて水面が輝いていた。

「へぇ……結構綺麗な所じゃん」

 誠二はその美しさに感動……というよりも感心していた。確かに見ていて心地が良いと感じる風景ではあるが、自然の神秘だの優雅さだのといったものは一切感じられない。かといって、ささやかな美とするにしても弱すぎる。だから胸によぎる感情は、感動ほど高くなく、落胆ほど低くもない感心だった。

 わざわざこんなものを見せられるために連れて来られたのだろうかとぼんやりと思っていると、蛍一が静かに、しかし力強く言葉を発した。

「おい。来たぞ」

 誰かいるのかと誠二は思わず周囲を見回す。しかし、ここには二人以外に人のいる気配はない。

『来たか。娘』

不気味な生暖かい風が吹き、それに乗って頭の中に響くような力強い声が聞こえ、思わず身構える。先程まで騒いでいた虫の声も鳴りを潜め、あたりは静寂に包まれた。

やがて湿地の水面からぬるりと抜け出すように一人の男が現れた。

大きな男で、その身長は誠二より少し高い。何より目につくのは男の素肌を覆うただ一つの衣類……黒い褌(ふんどし)だった。褌一丁の男を生で見るのは初めてで、誠二は思わず一瞬笑いかけてしまう。

しかし、その笑いは一瞬で吹き飛んだ。男の体は股間部以外全てをさらけ出していたが、浅黒い肌に覆いつくされた全身は非常に筋肉質で、芸術的と言える美しさを持っていた。

誠二は男が褌一丁という格好であるのも忘れて見入ってしまっていた。

……いや、むしろあの男という存在は褌を含めて完成された存在、完成された美であり、誠二は褌を面白いものではなく、男をさらなる極地へと高める素材として、無意識に高く認識したようにも思う。

 しかしそれは永遠ではなく、誠二はだんだんと頭が冷静になり事の異常性を整理していく。

まず男の身長はどう見てもこの浅い湿地の深さを凌駕しており、隠れていたと考えることはできない。

また、水面から出てきたはずにもかかわらず、男の浅黒い肌は濡れていないようで水滴一つ見当たらない。

極めつけに、男の足元を見ると男はどうやら水の上に立っているようだった。

そういった存在とあまり関わらない誠二にもわかる。間違いない。この男は妖の類だ。

「あ、兄貴……」

 退魔師の家に生まれたが、誠二は妖物に関しては全くの素人だった。それ故、この場での唯一の頼みの綱は兄である蛍一だけだった。

 しかし当の蛍一は、誠二の慌てふためきようはどこ吹く風という涼しい顔で落ち着き払っていた。

「約束を果たしに来たぞ」

『ふっ、まさか本当に来るとは思わなかったぞ、娘』

 蛍一と男が会話を始めた。男は蛍一の性別を知ってか知らずか“娘”と呼んでいるようだった。二人の口調に緊張だとか、警戒心だとかそういうものは感じられない。まるで気の置ける友人同士のように二人は話していた。

『それで、本当に俺と相撲を取ってくれるのだな?』

「ああ。もちろん——」

 相撲?場にそぐわないように思える言葉に誠二は戸惑いを覚える。……しかし、そんなものは蛍一が続けて紡いだ言葉に一瞬で吹き飛んだ。

「——弟の誠二がな」

 ……突然自分の名前が出たことに思考が止まる。脳が理解を拒絶する。

「え、あ、あの、兄貴……お兄様? 今、なんと?」

 聞き間違いだろう。そう自分に言い聞かせて蛍一に確認をする。しかし——

「え? ああ。誠二、ちょっとこいつと相撲を取ってくれ。」

 ほのかな期待は無慈悲に裏切られた。

『ほう……小娘の弟か。なかなかいい体つきをしているな。これは楽しめそうだ』

「気に入ってもらえて何よりだよ」

 誠二は狼狽した。この兄は何を考えているのか。人間の姿をしているとはいえ相手は得体のしれない妖怪……外見だけとっても筋骨隆々の大男などという相撲など取ったらただでは済まなそうな相手と相撲を取らせるとは。

 そんな誠二の動揺を見て取ったのか、蛍一は優しく声をかけた。

「ああ……大丈夫だよ、誠二。こいつはただここに住んでる相撲好きの精で、別にお前を取って食おうってんじゃないんだ。本当にただ相撲を取るだけだから……ちょっと頼まれてくれないか?」

「け、けど俺相撲のルールなんて知らないし……」

『安心しろ。俺もよく知らん』

「知らないのかよ! 相撲好きじゃないのかよ!」

「ま、それっぽいことさえできれば満足するから。頼むよ誠二」

「——!」

 蛍一が誠二に頼みごとをすることは珍しいことではない。蛍一は頻繁にお使いを誠二に懇願する。そして、今回の依頼もいつもと同じ返答が返った。

「はぁ……わかったよ。とりあえず、ちょっとだけ付き合ってやるよ。」

 誠二は、兄の懇願を断れない。

「うぉぉぉぉぉ!?」

 受け身を取った誠二の体がぬかるみに叩きつけられる。さすがにパンツ一丁で相撲を取るのは恥ずかしいということで、誠二の格好は上を脱ぐだけにとどまっていたが、何度も投げ飛ばされた結果全身が泥だらけになっていた。

『ハッハ! どうした小僧! 少しは歯ごたえがないとつまらんぞぉ!?』

男はその姿に見合った怪力で、いとも簡単に誠二を投げ続けていた。文字通り土をつけられなかった男の体には、汚れはおろか汗すら見られない。

誠二は身体能力に幾分かの自信があったが、まるで子供扱いだ。

相撲を取りたいだけだという話はどうやら本当らしく、上手に投げ飛ばされた誠二の体にはそこまでの負担はかかっていなかった。……もっとも、さすがに投げられ続けて限界が近いが。

息を荒げながら立ち上がろうとする誠二を見て、男が口を開く。

『フム……そろそろ限界か。しかしもう少し手ごたえが欲しいな……そうだ!』

 男は白い縞模様の刺青が入った両手を組んで何事かを思案し、少しして何か思いついたように表情を晴らした。

『小僧、一つ次の勝負で手打ちにしないか?その代わり一つ提案があるのだ』

 次で最後になる。そう聞いて安心感が誠二の胸の内に広がる。しかし、返事を返す余裕はなく、誠二は目線で男に続きを促した。

『で、その提案だが……どうだ。最後の勝負、俺と賭けないか?』

 賭ける? 何を? 誠二が混乱する中、男はやや下卑た笑みを浮かべて告げた。

『最後の勝負、俺が勝てば娘の操をいただこう』

 男の言葉は、あまりにも突拍子もなさ過ぎて誠二はしばらく何も考えることができなくなった。やがて、なんとか言葉のような息が口からこぼれる。

「……ハァ?」

『娘は見目も麗しく、健気に純潔を守り固めている。匂いで分かる。さぞや生き血も美味かろう。相手として申し分ない。』

 最早肉体の疲労すら忘れ、誠二は必死に言葉を紡ぎだす。

「お、お、男だぞ!?」

『それがどうした。娘は女以上に美しい。性別など抱かぬ理由にはなりえんよ。』

 価値観が違う。説得など不可能だろう。誠二はすがるように蛍一に視線を移そうとすると、蛍一の表情を目に入れる直前、男に対する蛍一の返答が耳に届いた。

「ああ。別に構わない。」

 あっさりと、大したことでもないように、蛍一は男にそう返した。男は満足げに頷く。

「な、な、な、何言って、何考えてんだよ! 兄貴!」

誠二の言葉として成立しうるかどうかの瀬戸際の叫びを聞き取り、蛍一はなおも柔らかい表情でそれに答える。

「要は、お前が勝てばいいんだろ?」

 この兄は先ほどまでの勝負が見えていなかったのか。どう逆立ちしたところで誠二は男にはかなわない。そんなことは直に戦った誠二が一番よくわかりきっているし、見ているだけだった蛍一にも分からないはずはない。なぜ誠二が勝てると信じられるのか。

『さて、十分休めただろう。最後の勝負を始めようではないか。』

 心も体も休めてなどいない! そう反論する力もなく、ゆらりと誠二は立ち上がる。

「はっけよーい……」

誠二の内心をよそに、蛍一ののんきな声が響く。

(ああ、この勝負に負ければ兄貴は大変なことに……)

 思わず想像してしまう。蛍一、そして目の前の男、そして……

 誠二の全身を寒気が駆けずり回る。そんなことは絶対にダメだ! 死んでも勝ってやろう。そう決意する。

「のこった!」

 蛍一の掛け声とともに、男が突っ込んでくる。それはまるで漆黒の戦車の突進だった。それに対し、絶対に負けまいと誠二も体を思いっきり乗り出す。

『うおぉぉぉぉ!』

「ふぅ……ぬ、ぐ、ふぅぅぅ!」

 男と誠二の体がぶつかり合い、絡み合う。これまでの取り組みではこの時点で誠二の肢体は宙に浮いていたが、死に物狂いで力をかけている今の誠二は何とかまだ地に足をつけていた。

 男は大きな声を響かせるが、誠二は息も絶え絶えで、掛け声などは出ない。それでも何とか組み続けることはできた。

 しかし、それもいつまでも続かない。やがてもうこれ以上続けたら死んでしまうと本気で思う、その瞬間だった。

 ささやかで、さわやかなそよ風が吹く。誠二は気持ちよさを感じるのに一瞬遅れて、違和感を覚えた。

(……あれ? 軽い?)

 ふと、男の体を軽く感じたのだ。思わず、そのまま地面に投げ倒す。

 すると、男の体は今までの取っ組み合いが嘘だったかのようにあっさりと泥に叩き伏せられてしまった。

「……え?」

 状況を呑み込めないでいると、パチパチパチと小さな拍手の音が鳴る。

「やったな。誠二」

見ると、蛍一が手を叩いていた。称賛の言葉によってやっと誠二は自分が勝利した事実を認識し、晴れやかな気持ちになる。

「やった……? 俺、勝ったぁ……!?」

『まさか、そいつを使われるとはなぁ』

 男が蛍一の手元を見ながら、泥まみれになった体を起こす。

「まさか、本当にうまくいくとは思わなかったよ。」

 男の視線の先、蛍一の手には、うちわが握られていた。そのうちわがどうかしたのだろうか。誠二の目には、どう見ても普通のうちわにしか見えなかった。

「なあ誠二。蚊相撲って話知ってるか?」

 蛍一が誠二に話し掛ける。この口調は知っている。蛍一が誠二に解説をするときの語り口だ。

「いや……」

「狂言の1つでな。蚊の精霊と相撲を取るという話なんだが、そいつは結局うちわであおがれて負けてしまうんだ。ま、結局うちわが通じないバージョンもあるが」

 蛍一の言葉を聞き、しばらくの間考えてから、ようやくそれがまとまった。

「お前、蚊だったのか!?」

『お? お前まだ知らなかったのか。』

 誠二の反応に男——蚊の精は意外そうな顔をする。確かにそう考えれば浅黒い肌に白い縞模様は蚊のように見えなくもないし、確か蛍一の生き血が美味そうだとも言っていた気がする。そこまで考えて、一つの疑問がよぎる。

「ってあれ? こいつ雌だったの?」

血を吸う、というフレーズは蚊を想起させるが、血を吸う蚊は確か雌だけのはずだ。蚊の精の外見は明らかに男性のそれだが実は雌だったのだろうか。

「いや、コイツは確か江戸時代くらいに生まれたからな。確か江戸時代には血を吸う蚊は雌だけだと観測されていないはずだろ?だからこいつは血を吸うけど男性なんだよ」

「……なんでそうなるんだ?」

「だから雌しか血を吸わないっていうのは人間がそれを発見したからそれが世界を修正して……いや、説明してもわからないな。とにかくこいつは血は好きだけど男だ」

 さっぱりわからないが、蛍一が説明しても分からないというのならば本当にわからないのだろう。それほど蛍一の知識は現代の常識とはかけ離れているのだ。

「……待てよ?そうなると俺はこいつを実力で倒したんじゃなくて……」

「ああ。俺の手助けで倒したってことになるな」

 誠二は恐る恐る蚊の精を見る。この勝負は無効だなどと言い出すのではないかと不安になったのだ。

『ああ。そんなに気にするな小僧。確かに先の勝利は娘の手助けによるものだったが、お前の戦いは投げられてもよいと思えるほどの素晴らしい大健闘であった。それに元より俺は娘と愉しむつもりはない。』

「……え?」

「発破をかけたんだよ。お前にだから俺も乗ったんだ」

 誠二は蛍一の言葉に思わずほっと息をつくと同時に、腰が抜けてしまう。

「……なんだよ、じゃあ俺は頑張る必要なかったってことかよ」

『すまないな小僧。詫びと言っては何だが、確か俺が負けた時の約束をしていなかったな』

「……あ」

 自分が負けた時の事ばかりを考えていて、誠二はそのことに全く考えが行っていなかった。

『まず娘……蛍一よ。よくぞ俺を楽しませてくれた。何かあれば呼ぶがいい。お前の力となってやろう』

「ありがとうございます」

『それから……小僧。実は俺には名が無い。そこで、お前には俺の名付け親になってほしいのだ。』

「名前……?」

「ハァッ!?」

 誠二があっけにとられるのとは逆に、蛍一は心底驚いたという風に大声を上げる。誠二は思わずそちらに目を向けるが、蛍一はすぐに平静を立て直し、

「い、いや、いいんだ。別に何でもない」

と言った。

誠二は蛍一が驚く、それもあんなに大げさにというのは珍しかったので、しばらく目を離せなくなってしまったが、それ以上何か反応するそぶりを見せなかったため、とにかく蚊の精の相手をすることにした。

「えっと……名前を付ければいいんだよな?」

『ああ』

「じゃあ……“横綱“で」

特に考えも無かったので、思いついた名を適当に言ってみた。

『横綱……うむ。善い名だ。感謝するぞ!誠二よ』

 蚊の精……横綱は満面の笑みを浮かべ、喜ぶ。たかが名前くらいで仰々しいなあと誠二はぼんやりと思った。

やがて、蛍一と誠二は帰途に就いた。横綱は去り際に

『また遊びに来るがいい。歓迎しよう』

 と言って消えてしまった。

山道を下りだしてしばらくしたころ、蛍一がこんなことを言い出した。

「誠二。お前横綱に名前を付けたよな」

「ああ……それがどうかしたのか?」

 蛍一の顔はいつになく真剣だった。

「……かなり専門的な話になるからうまく説明できる自信はないが……名前、というのは一種の呪いなんだ。」

「へぇ?」

 誠二はもうこの時点でついていけそうな気はしなかったので、話半分に聞くことにした。

「名前が付けられることによって自我が補強され、現世に縛られる。固定という意味でも、拘束という意味でもな。逆に、名が無いということは存在も曖昧……だが、束縛が存在しない……つまり、ある意味無敵と言えるんだ」

「……」

 よく分からない、誠二がそう思っている空気を感じたのだろう。敬一は一旦咳ばらいをすると、声の調子を上げて改めて語りだした。

「……要するに、あいつは名前を持つことで弱くなったってことだ。それに、名を付けてもらうということは一種の契約だ。あの時、お前と横綱の間にお前を主とした主従契約が結ばれたんだよ。」

 その説明を、誠二は少しずつ理解する。

「……ひょっとして、俺ってあいつに悪いことしたのか?」

 その言葉を聞き、蛍一は先ほどまでの険しい表情から、安心したような穏やかな表情になり、優しい口調でそれに返した。

「いや。横綱は満足だよ。それだけお前のことを気に入ったってことさ。」

「……そうか?」

「ああ。そうだ」

 正直な所、誠二は少し不安だ。名を付ける事を提案したのは横綱自身であるから、彼もそのあたりの事情も誠二以上にわかっているのだろう。

しかしそれでも弱体化するというのは彼を傷つけたとも解釈できるだろうし、蛍一の驚きようを見るに、その影響は誠二が考えるより……蛍一の言葉以上に強いのかもしれない。

 だが、蛍一の言うところの横綱が誠二を気に入ったというのも事実なのだ。

誠二は確かに横綱を傷つけたかもしれないが彼にとってはそれは絆の証明なのだ。

「……だったらよかった」

 そこからの帰り道、二人は互いに話題を出し合いながら会話にいそしんでいた。

満月が、二人の帰り道を明るく照らしていた。

はいいろクリスマス

はじめまして。

MBAのインターンシップに参加させて頂いています、高橋樹と申します。

今回、私が執筆させていただきます記事は、“自作小説”です。

私は大学では文芸倶楽部というサークルに所属しており、そちらで様々な文芸作品を執筆してきました。これから、私が執筆してきた一部の小説作品を公開・紹介させていただきたいと思います。

今回紹介いたしますのは、“はいいろクリスマス”という作品です。

タイトルの通り12月頃に執筆した作品でして、私が文芸倶楽部の活動で初めて執筆した小説作品です。

ジャンルと致しましては恋愛小説に該当致します。クリスマスにすれ違う男女の姿を描いた作品です。

この作品を書いた経緯についてですが、当時“クリスマス”というお題で作品を書くことになり、最初に思い付いた情景は『イルミネーションが辺りを照らす夜、雪が降ってホワイトクリスマスになる』という情景でした。このような情景は数多くの映像を始めとした創作作品においてはよく取り上げられるシチュエーションであり、クリスマスと聞いて同様の連想をする方も多いのではないでしょうか。そして私はその情景が浮かんだ直後こんなことを思いました。『ホワイトクリスマスとは、どこからがホワイトクリスマスなのだろう』と。調べたところクリスマスイブ、またはクリスマス当日に積雪があればホワイトクリスマスに該当するそうです。では、クリスマスにただ雪が降っただけではホワイトクリスマスではないのか。そんな雪が降った中途半端なクリスマスと男女の中途半端な関係を絡めて描こうと考えて執筆したのがこの作品です。

興味があれば、是非ご覧ください。

はいいろクリスマス

「えー、今日の補習はここまで。今日がクリスマスだからって、お前らあまりはしゃぎすぎるなよー」

 教師のその言葉を聞いて、今まで朦朧としていたミカの思考が一瞬で覚醒する。

 先ほどまでうつろな表情でミミズのような文字を綴っていたのが嘘のような機敏な動きで教科書とノートをカバンにしまい、帰りの支度を整える。

「ミカー。ワタシらこれからみんなで遊びに行くんだけどさー。ミカも来ない―?」

 隣の席で補習を受けていた友人、サキがミカに話しかける。

 サキの誘いは魅力的なものだ。普段ならば二つ返事でミカは了承しただろう。しかし、今日ばかりはそうはいかない理由があった。

「ゴメーン!ワタシこれからカレシとデートなんだぁー♪」

 そう。今日ミカは彼氏であるユージとのクリスマスデートがあるのだ。

「ウッソマジ!?いいなぁ~!ワタシもホントはケータとデートしたかったケド、ケータ今日予定あるらしくて―……」

 ミカは一瞬、確かサキの彼氏の名前はアラタという名だったはずだが、と考えかけて即座にまた新しい彼氏が見つかったのだろうと思い至る。

サキの彼氏が変わることなど日常茶飯事。いつものことだ。

「だから今日はホントゴメンねー!」

「いいよいいよー!デート頑張ってねー!」

 サキはそう言うと教室内で待機していたほかの友人たちのもとに走っていった。

 サキが去ったのでデートの準備のため、早々に帰ろうと足早に教室を出る。

 廊下に出てふと窓を見ると、外では雪が降っていた。ふわり、ふわりと柔らかく雪が降っている。

「これってもしかしてホワイトクリスマス?」

 ホワイトクリスマス。なんとロマンチックなことなのだろうか。しかも自分はこれから彼とデートなのだ。ミカは雪が降る中でのクリスマスデートを思わず想像し、ときめく。

 ミカは胸を高鳴らせ、足早に雪の中へと駆け出した。

 クリスマスデートを言い出したのはユージだった。

 2人でテレビを見た時、近所のクリスマスツリーのイルミネーションの宣伝が流れて話が持ち上がったのだ。

 計画は2人で相談をして立てた。……もっとも、考えたのはほとんどミカだったが。

 クリスマスにはミカは期末テストの成績が振るわなかったための補習にかかってしまい、ユージもバイトが入ってしまったためデートは夕方から夜にかけての時間に行うことになったが、夜のデートというのもそれはそれでよいと2人は考えた。これまでのデートは、どれも昼間に完結していた。夜にまで及ぶデートは、今回が初めてだ。

 計画は完璧。ミカは今日この日まで、今か今かと待ち焦がれていた。

「え……?ちょっと……何それ……来れないってどーいうこと!?」

 待ち合わせ場所のクリスマスツリーのイルミネーションの前。少し早めにやって来たミカは2時間近くユージを待っていた。待ち合わせ時間はとっくに過ぎていたが、ユージは時間にルーズなところがあるのでたまたま遅れているだけなのだろうと思い、しばらくは気にも留めなかった。

 しかし、予定していた時間から1時間も過ぎるとさすがに不安がミカの胸をよぎりだし、それからしばらくしてミカを完全に凍り付かせる電話をユージが掛けてきた。

『いや、だからさ?今日俺の次にバイトのシフトに入るはずだった奴らが軒並み出れなくなっちゃったらしくてさ?人手が足りないから俺も出ろって店長がうるさくてさ?』

 電話口からユージの軽い口調の言葉が流れ出る。彼が事態を深刻に、真剣に捉えていないのは明白だった。

「そんなの……断っちゃえばいいじゃん!」

『でもさ?あの店長そうしないとクビにするってうるさいんだよ。この仕事の給料はある程度イロ付けてくれるっていうしさ?この埋め合わせにまた今度デートすればいいだろ?』

「はぁ!?」

『じゃ、俺仕事戻るから』

「え、ちょ!」

 反発する暇もなく、電話は、あっさりと切れた。

 即座に電話を掛け直すがユージが応じることは無く、とうとう彼は携帯の電源を切ってしまったようだった。

 呆然と立ち尽くす。

 まさかここまで来てこんなことになるとは思わなかった。

 ユージには少し思慮の浅いところがあるとは思っていたものの、まさかここまでだとは思ってもいなかった。

 胸が張り裂けそうになり、涙があふれそうになる。このミカに去来する感情は悲しみではない。悔しさだ。

 涙を流すまいと、天を仰ぐ。そこには、星1つ無い漆黒の夜空が広がっていた。

……そう、雲一つ無い空が。

 雪は、もう止んでいた。

 その事実に気付き、空しくなって今度は顔を落とす。しかし地べたには雪が降っていた唯一の痕跡である湿り気が残っていて、余計にミカを惨めな気持ちにさせた。

 雪の止んだクリスマスは、ホワイトクリスマスなのだろうか。

 違う。と、ミカは思った。こんな中途半端を、そんな浮ついた言葉などで表していいはずがない。

 純粋で真っ白な期待に、どす黒いものが無理やりかき混ぜられた、醜い灰色。

 はいいろクリスマス。今日は、そう呼ぶのがふさわしい。

キーボードとしてPCに認識させよう

こんにちは、インターン生の岡島と申します。

皆さん、音ゲーは好きですか?
よく遊びますか??
作ってみたくないですか???

ゆるーく電子工作未経験の人がコントローラーを作れるようになることを目的として、
電子工作初心者が書いていきます。

前回は、複数のボタンを繋げ、押されたら光らせてみました。

今回は、Arduino Unoにちょっと手を加えて、USBキーボードにしましょう!

こちらのサイト( http://techi.mydns.jp/?p=229 ) 非常に丁寧でわかりやすいのですが、それでも初心者の僕が
理解に苦しんだポイントを書いていきます。

そもそも、Arduino UNOに乗っているマイコンチップはATmega328Pというものです。
しかし、もう一つ、ATmega16U2というマイコンチップも乗っています。
ATmega328Pはスケッチの処理をしてくれる役割を持っていると思ってください。
ATmega16U2はUSBシリアルコンバータという役割があります。

ATmega328Pにスケッチを書き込みたいけどATmega328PにはUSBシリアルコンバーターという機能はありません。(PC→USB→ここで止まっちゃう →ATmega328P)

だから、ATmega16U2が代わりに通信をしてATmega328PにPCからUSB経由でスケッチを送ってくれています。(PC→USB→ATmega16U2→ATmega328P)

では、スケッチの通信をUSBでPCに送るためには?
そうです、受け取る通信をしているATmega16U2に、送る通信をさせればいいのです。(PC←USB←ATmega16U2←ATmega328P)

ATmega16U2には、初期状態(スケッチを書き込める状態)では、スケッチを書き込むためのファームウェアが入っています。
今回やるのは、このスケッチを書き込むためのファームウェアを書き換えて、USBキーボードのとして振る舞うようなものに書き換えれば、
Arduino UNOをUSBキーボードに作り変えることができるのです。

Atmel FLIPを使ってATmega16U2のファームウェアを書き換えます。
FLIP 3.4.7 for Windows (Java Runtime Environement included)を下記サイトからダウンロードします。
https://www.microchip.com/developmenttools/ProductDetails/FLIP

書き換えるファームウェアをGitHubから入手します。
https://github.com/coopermaa/USBKeyboard/tree/master/firmware

あとは、先ほど紹介したページ通りにやればオッケーですが、以下にポイントだけ書きます。

ATmega16U2に、書き換えるためにはArduino UnoをATmega16U2で起動しなければなりません。
通常、USBを刺しただけではATmega328Pで起動してしまいます。
そこで、USBに刺した状態で6つのピンの内、この2つのピン(↓の☆の部分)を銅線やら何かで繋げると、Arduino UnoがATmega16U2で再起動します。
                               ☆・・
                           (電源) ☆・・

ATmega16U2のファームウェアを書き換えて、USBキーボードにした場合は先ほど説明した通り、
ATmega328Pにスケッチを書き込めません。
そのため、スケッチを書いてからやることをオススメします。
また、ATmega16U2は頻繁にファームウェアを更新することは想定されていないので、100回程度やると壊れます。

再び、スケッチを書き込みたい場合は、ATmega16U2のファームウェアを”Arduino-usbserial-atmega16u2-Uno-Rev3.hex”に再度書き換えてください。

Arduino,PCが破損しても責任は負えません、配線等は各自よく調べたうえで実行しましょう!

第一回 お触り、Arduino IDEのインストール
第二回 LED光らせる?(Lチカに挑戦!)
第三回 スイッチを繋げてみよう!
第四回 押したらボタン、光るようにする…?
最終回 キーボードとしてPCに認識させよう

今回で以上です。

それではまたどこかでお会いしましょう!

さようならー!!

興味を持たれた方はお気軽にお問い合わせください。

押したらボタン、光るようにする…?

こんにちは、インターン生の岡島と申します。

皆さん、音ゲーは好きですか?
よく遊びますか??
作ってみたくないですか???

ゆるーく電子工作未経験の人がコントローラーを作れるようになることを目的として、
電子工作初心者が書いていきます。

前回は、スイッチを使ってLEDを点灯させました。

今回は、複数のボタンを繋げ、押されたら光らせてみましょう!

それでは、早速回路を組み立てましょう!
必要なものはこちら↓
・Arduino Uno本体
・LED
・照光式押しボタン薄型60φ正方形(【OBSA-60UK】)
・LHS-H(OBSA-LHS1F-LN用のハーネス)
・ジャンプワイヤー(オス・オス)
・ブレッドボード
・抵抗
・USB-Type B

まず、2つのボタンを繋げます。

照光式押しボタン薄型60φ正方形におすすめのスイッチは【OBSA-LHS1F-LN】です。(標準で付いてる)
OBSA-LHS1F-LNは上部にLEDを付けられます。
これにより、容易にボタンを光らせることが可能です。

OBSA-LHS1F-LNのLEDを改造します。
OBSA-LHS1F-LNについているLEDは12Vです。
Arduino Unoで扱える電圧ではないので5VのLEDに差し替える改造をします。

改造手順
1,OBSA-LHS1F-LNの先端部分のヘッド球を外す
2,LEDの足がヘッド球の下側で折り曲げられているのでまっすぐに伸ばす
3,LEDの部分と支えの部分を分離させる(ペンチでLED部分をつかむとやりやすい)
4,5V以下のLEDに差し替える(+,-注意)
5,先ほど抜いたLEDのように足を折り曲げる(足が長い場合は切ってもいい)
6,OBSA-LHS1F-LNに戻す(+,-注意)
以上

OBSA-LHS1F-LNの側面を見ると、コネクタ接続部分の役割が書いてあります。
上から
・プラス
・マイナス
・NO (スイッチに流す電流の入り口みたいなイメージ)
・COM(スイッチに流す電流の出口みたいなイメージ)
です。

回路は以下のとおりです。

かなり複雑ですが、頑張って回路が出来たらArduino IDEを起動しましょう!
以下のプログラムを書いてみてください

const int SWITCH1=1; // スイッチを繋げたのは1番ピン
const int SWITCH2=0; // スイッチを繋げたのは0番ピン
const int LED1 =3; // LED1を刺すのは3番ピン
const int LED2 =2; // LED2を刺すのは2番ピン

uint8_t keyData[8] = { 0, 0, 0, 0, 0, 0, 0 };

// void setup(){}は、起動時に一回のみ走るプログラムです。
 void setup() {
pinMode(SWITCH1,INPUT) ; // SWITCH1の接続ピンをデジタル入力に設定
pinMode(SWITCH2,INPUT) ; // SWITCH2の接続ピンをデジタル入力に設定
pinMode(LED1,OUTPUT) ; // LED1の接続ピンをデジタル出力に設定
pinMode(LED2,OUTPUT) ; // LED2の接続ピンをデジタル出力に設定
Serial.begin(9600); // シリアル通信準備
delay(2000);
}

// void loop(){}は、繰り返し走るプログラムです。
void loop() {
if (digitalRead(SWITCH1) == HIGH) { //スイッチ1の状態を調べる
digitalWrite(LED1 ,HIGH) ; //スイッチ1が押されているならLED1を点灯,シリアル通信で”a”を送信
keyData[2] = 0x04; // ‘a’キー
Serial.write(keyData, 8); // キーの入力を送信(make)
keyData[2] = 0x00;
Serial.write(keyData, 8); // キーの解放を送信(break)
}
else {
digitalWrite(LED1,LOW) ; //スイッチ1が押されていないならLED1を消灯
}

if (digitalRead(SWITCH2) == HIGH) { //スイッチ2の状態を調べる
digitalWrite(LED2 ,HIGH) ; //スイッチ2が押されているならLED2を点灯,シリアル通信で”b”を送信
keyData[2] = 0x05; // ‘b’キー
Serial.write(keyData, 8); // キーの入力を送信(make)
keyData[2] = 0x00;
Serial.write(keyData, 8); // キーの解放を送信(break)
}
else {
digitalWrite(LED2,LOW) ; //スイッチ2が押されていないならLED2を消灯
}
}

キーコードはこちらのサイトがわかりやすいと思います。( http://www.freebsddiary.org/APC/usb_hid_usages.php )
7番の keybordの欄を参考にしてください。

それでは書き込みましょう!

ボタンを押すとボタンのLEDが光りましたか?
シリアルモニターというArduino IDEのツールを開いてください。
ちゃんと通信できていますか?
おめでとうございます。

うまくいかなかった場合は、回路を確認したり、スケッチが正しいかを確認しましょう。

Arduino,PCが破損しても責任は負えません、配線等は各自よく調べたうえで実行しましょう!

第一回 お触り、Arduino IDEのインストール
第二回 LED光らせる?(Lチカに挑戦!)
第三回 スイッチを繋げてみよう!
第四回 押したらボタン、光るようにする…?
最終回 キーボードとしてPCに認識させよう

今回は以上です。
次回、Arduino Unoをキーボードに改造します。
それでは次の記事、キーボードとしてPCに認識させよう でお会いしましょう!

興味を持たれた方はお気軽にお問い合わせください。

スイッチを繋げてみよう!

こんにちは、インターン生の岡島と申します。

皆さん、音ゲーは好きですか?
よく遊びますか??
作ってみたくないですか???

ゆるーく電子工作未経験の人がコントローラーを作れるようになることを目的として、
電子工作初心者が書いていきます。

前回は、LEDとArduino Unoを使ってLEDを点滅させました。

今回は、音ゲーコントローラーの肝であるスイッチの入力をやります。
しっかりと入力が得られているかを確認するために、スイッチが押されたらLEDが光る、といったものを作ります。

それでは、早速回路を組み立てましょう!
必要なものはこちら↓
・Arduino Uno本体
・LED
・スイッチ(オススメはタクトスイッチ)
・ジャンプワイヤー(オス・オス)
・ブレッドボード
・10kΩの抵抗
・USB-Type B

スイッチとはなんぞ?
ざっくり解説すると、スイッチは押すと回路が繋がり電流が流れるものです。

_/_ ←押す前   ___ ←押してる時
今回は、説明用に手ごろなタクトスイッチを使って説明しますが、音ゲーコントローラーに使うなら三和電子のボタンをオススメします。
(第一回の時に紹介したもので使用しているのは、照光式押しボタン薄型60φ正方形【OBSA-60UK】)

まずは、LEDのプラス(アノード)を13番のピンに刺し、LEDのマイナス(カソード)をGNDピンに刺します。
後は、画像のようにつなげます。

回路が出来たらArduino IDEを起動しましょう!
以下のプログラムを書いてみてください

const int LED =13; // LEDを刺すのは13番ピン
const int SWITCH=0; // スイッチを繋げたのは0番ピン

// void setup(){}は、起動時に一回のみ走るプログラムです。
void setup() {
pinMode(SWITCH,INPUT) ; //スイッチの接続ピンをデジタル入力に設定
pinMode(LED ,OUTPUT) ; //LEDの接続ピンをデジタル出力に設定
}

// void loop(){}は、繰り返し走るプログラムです。
void loop() {
if (digitalRead(SWITCH) == HIGH) { //スイッチの状態を調べる
digitalWrite(LED ,HIGH) ; //スイッチが押されているならLEDを点灯
}
else {
digitalWrite(LED ,LOW) ; //スイッチが押されていないならLEDを消灯
}
delay(20); // チャタリングを防止する為に20ms待つ
}

それでは書き込みましょう!

スイッチを押すとLEDが光りましたか?
おめでとうございます。
如何でしょうか?思ったより簡単で楽しいでしょう?

うまくいかなかった場合は、回路を確認したり、タクトスイッチの場合は向きが正しいかを確認しましょう。

押した時にLEDが僅かに点滅した場合、チャタリングが起きている可能性があります。
押した時の振動で回路をつなぐ部分が引っ付いたり離れたりして起こる現象です。
それを回避するために、今回はdelay()を使っています。
delay()の引数(ミリ秒)を増やせば解消されます。

抵抗が必要な理由は?
スイッチから0番への線、そして抵抗がならんでいます。
なぜ直接GNDにつなげず、抵抗を挟むのか?
答えは、この抵抗がないと0番の値が不安定になってしまうからです。
それで生じる誤反応を防ぐために付けています。(プルダウン抵抗といいます)

Arduino,PCが破損しても責任は負えません、配線等は各自よく調べたうえで実行しましょう!

第一回 お触り、Arduino IDEのインストール
第二回 LED光らせる?(Lチカに挑戦!)
第三回 スイッチを繋げてみよう!
第四回 押したらボタン、光るようにする…?
最終回 キーボードとしてPCに認識させよう

今回は以上です。
次回、ボタンを光らせる為に私が行ったやり方と複数個のスイッチの繋げ方を書きます。
それでは次の記事、押したらボタン、光るようにする…?でお会いしましょう!

興味を持たれた方はお気軽にお問い合わせください。

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LED光らせる?(Lチカに挑戦!)


こんにちは、インターン生の岡島と申します。
皆さん、音ゲーは好きですか?
よく遊びますか??
作ってみたくないですか???
ゆるーく電子工作未経験の人がコントローラーを作れるようになることを目的として、
電子工作初心者が書いていきます。
今回はLEDとArduino Unoを使ってLEDを点滅させちゃいましょう!!
LEDを点滅させる、通称”lチカ”は、プログラムでいうところのHelloWorldのようなものです。
LEDがちゃんと点滅するということは、Arduino Unoがきちんと動作するということになります。
それでは、早速回路を組み立てましょう!
必要なものはこちら↓
・Arduino Uno本体
・LED
・USB-Type B
Arduino Unoには0~13番のデジタルI/Oピンと0~5番のアナログINピンがあります。
デジタルピンの3,5,6,9,10,11番はアナログ出力としても使えます。
例えば、つまみを回した分だけLEDが明るくなる、または暗くなる物を作るときにアナログ入力とアナログ出力のピンを使います。
今回は単純な点滅なので13番のデジタルPINとGNDを使います。
LEDには長さの違う線が二本あります。
長いほうがプラス側で短いほうがマイナス側です。(プラスとマイナスを間違えるとLEDが壊れてしまうので注意です)
LEDの長いほう(プラス側)を13番のピンに刺し、
LEDの短いほう(マイナス側)をGNDピンに刺します。
Arduino IDEを起動しましょう!
以下のプログラムを書いてみてください
const int LED =13; // LEDを刺すのは13番ピン
// void setup(){}は、起動時に一回のみ走るプログラムです。
void setup(){
pinMode(LED,OUTPUT); // 13番ピンを出力モードに設定する
}
// void loop(){}は、繰り返し走るプログラムです。
void loop(){
digitalWrite(LED,HIGH); // 13ピンの出力をON digitalWrite(反映するピンの番号,HIGH or LOW);
delay(1000); // 1秒待つ delay(待たせたい時間、単位はミリ秒);
digitalWrite(LED,LOW); // 13ピンの出力をOFF digitalWrite(反映するピンの番号,HIGH or LOW);
delay(1000); // 1秒待つ delay(待たせたい時間、単位はms);
}
上記プログラムが書けたらコンパイルしましょう!ちなみに書いたプログラムのことをスケッチと呼びます。
左上のチェックマークをクリックしてください。
異常があれば教えてくれます。
PCのUSBポートにArduino Unoを接続しましょう!
そして、書いたスケッチを書き込むためのの設定をします。
メニューバーのツール→マイコンボード→Arduino Unoを選択してください。
メニューバーのツール→シリアルポート→Arduino Unoを繋げたポートを選択してください。(ポートはデバイスマネージャで確認できます)
それでは書き込みましょう!
先ほどクリックしたチェックマークの右隣の矢印のマークをクリックしましょう!
Arduino Unoの接続したLEDが点滅したらOKです!おめでとうございます!
如何でしょうか?思ったより簡単で楽しいでしょう?
Arduino,PCが破損しても責任は負えません、配線等は各自よく調べたうえで実行しましょう!
第一回 お触り、Arduino IDEのインストール
第二回 LED光らせる?(Lチカに挑戦!)
第三回 スイッチを繋げてみよう!
第四回 押したらボタン、光るようにする…?
最終回 キーボードとしてPCに認識させよう
今回は以上です。
それでは次の記事、スイッチを繋げてみよう!でお会いしましょう!
興味を持たれた方はお気軽にお問い合わせください。

お触り、Arduino IDEのインストール

こんにちは、インターン生の岡島と申します。
皆さん、音ゲーは好きですか?
よく遊びますか??
作ってみたくないですか???
ゆるーく電子工作未経験の人がコントローラーを作れるようになることを目的として、
電子工作初心者が書いていきます。

今回から5回に分けて、自作音ゲーコントローラーを作成する為に必要な事をお伝えしたいと思います!
ちなみに私が実際に作ったものがこちらになります。↓

このコントローラーに必要な準備物は以下の通りです。
・ベニヤ板(コントローラーパネル部分)
・木の板(コントローラーパネルを支える部分)
・照光式押しボタン薄型60φ正方形(【OBSA-60UK】)
・LHS-H(OBSA-LHS1F-LN用のハーネス)
・フェーダー(【EVA-JQKR15A14】POT SLIDE 10K OHM .25W 100MM)
☆抵抗(大体100本セットで売ってます、10kΩくらい)
☆ブレッドボード
☆ジャンプワイヤー(ブレットボード等の配線に使用)
☆Arduino Uno(一番使いやすい気がする…)
☆USB-Type B (Arduino UnoとPCの通信に使用)

”☆”のついてるものは必須です。(メインとして解説していく部分になります)

コントローラー作成の流れとしては
プログラムを書く→Arduino Unoに書き込む
→スイッチやら繋げる→Arduino UnoをPCにUSBデバイスとして認識させる

今回は、Arduino Unoにプログラムを書き込むためのツール(Arduino IDE)をインストールしましょう!
Arduino の公式サイトにあります→https://www.arduino.cc/en/Main/Software

使用する言語はC言語です。
if();がわかれば十分だと思います(今回は割愛!)

こんな感じでゆるーく未経験の人がコントローラーを作れるようになることを目的として書いていきます。
アナログ入力(可変抵抗)についてはお話しません。

Arduino,PCが破損しても責任は負えません、配線等は各自よく調べたうえで実行しましょう!

第一回 お触り、Arduino IDEのインストール
第二回 LED光らせる?(Lチカに挑戦!)
第三回 スイッチを繋げてみよう!
第四回 押したらボタン、光るようにする…?
最終回 キーボードとしてPCに認識させよう

今回は以上です。
それでは次の記事、LED光らせる?(Lチカに挑戦!)でお会いしましょう!

興味を持たれた方はお気軽にお問い合わせください。